「はいたいコラム」 いちばん古い仕事が最先端


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 島んちゅのみなさん、はいた~い!静岡県浜松市の最北端、天竜川の上流に雑穀で地域振興をはかる小さな集落があります。その地区・水窪(みさくぼ)は、山の斜面に民家や畑が点在する日本の山岳地帯です。

 辺りでは昔からどの家でも、アワ、ヒエ、キビなどの雑穀を栽培していましたが、石本静子さん(78)は、つくる人がほとんどいなくなった今でも先祖代々の種をまき、育ててはまた種を採るという暮らしを50年以上続けています。「どんな時代が来ても土があれば生きて行ける」。「種はなくさんように」。それは里の母の教えであり、おしゅうとさんの教えでもありました。戦後の食料難だった子供時代、家の前に雑穀を求める人々の行列ができていた光景を忘れることはないそうです。

 農家レストラン「つぶ食いしもと」で、雑穀のフルコースを頂きました。キビごはん、もっちりしたヒエのフライ、タカキビの春巻き、在来種のジャガイモ、クルミあえ、山菜の天ぷらからヒエのケーキまで、100%近隣の山や畑でとれた材料に伝統とアレンジを加えた郷土料理が並びます。

 インカ帝国の食を支えた南米のキヌアがスーパーフードとして注目されていますが、ここ数年、日本古来の雑穀も見直され、なんと9月には「水窪雑穀サミット」が開かれます。畑の特設会場には、有名シェフによる一夜限りのレストランが開店し、元サッカー日本代表選手による雑穀と腸内細菌の研究発表など、雑穀は地域を担う未来の食へとその役割を進化させています。

 雑穀で地域再生のきっかけとなったのは、浜松のうなぎパイで知られる菓子メーカー「春華堂」です。新商品に雑穀を使いたいと地元NPOと連携して、3年前から雑穀栽培が始まりました。地元メンバーの中には信州で農業を学んで帰ってきた静子さんの孫、駿輔さん(26)もいます。駿輔さんは、祖母が毎年欠かさず種をとり、雑穀を守り継いで来たのをずっと見ていたのです。移住や定住のカギを握るのは「孫ターン」だと言われます。自分らしく生きられるのは都会よりも田舎だと感じる孫世代の存在です。おばあちゃんがご先祖様から受け継いで来た仕事は、実はソーシャルでサスティナブル(持続可能)でかっこいいのだ! 一番古いと思っていたことが、これからは最先端なのです。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)