「はいたいコラム」 子だくさん村の幸せなコーヒー


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 島んちゅのみなさん、はいた~い!タイ最北端のチェンライへ行ってきました。平均気温は石垣島とほぼ同じ。この辺りはゴールデン・トライアングルと呼ばれ、メコン川流域にラオス、ミャンマー、タイの3カ国が接する国境地帯です。山岳地帯に暮らす少数民族はその昔、アヘンの原料となるケシ栽培で収入を得ていましたが、タイ王室による支援策・ロイヤルプロジェクトにより、植林して山をよみがえらせ、森の中のコーヒー農園が30年ほど前から始まっています。

 なんとそのコーヒー豆を販売しているのは現地在住の日本人だと聞きつけ、その人、今中健太郎さん(42)を訪ねました。今中さんは兵庫県尼崎市出身。商社のバンコク支局の立ち上げに関わったことからタイ人の奥さまと結婚し、10年前に「オリエンタルファズ」という株式会社を設立しました。都市部よりもチェンライの山々と田園風景を見たときに、ここで暮らし、この地域に関わる仕事をしたいと思ったそうです。

 標高1200メートル、コーヒー豆を栽培するアカ族の村、パヒー村を案内してもらいました。村長のアランさんは今中さんと同じ42歳。2008年から10年間、生産者と販売者としてタッグを組み、チェンライコーヒーを発信し続けています。大規模なコーヒー農園と違い、山の斜面に点在して植えられたコーヒーの木は、手入れも収穫も人手がかかりますが、森の多様な植物の循環で、落ち葉は腐葉土となり、農薬も化学肥料も一切投入しない、森の生命循環によって育まれたコーヒー豆です。アラン村長は、実がずっしり重く、香りや味も濃い豆ができると教えてくれました。

 何より私が驚いたのは、村の92世帯全員がコーヒー生産者だということ。そして村民560人のうち小学生以下の子どもが実に144人いるというのです。若い働き手がたくさんいる。未来を担う子どももいる。いま、日本中の誰もが求めて手に入れられない宝物をこの村は持っているのでした。

 なぜ若い人が村から出ないのか、村長に伺うと、アカ族では兄弟のうち1人は両親をみるのが決まりだからと、こともなげにおっしゃいました。親孝行であれば少子化にならないというのです。家族が助け合い、ずっと地域が続く暮らし。チェンライコーヒーを買って飲めば、私たちもそのハッピーな輪の中に入れるかもしれませんね。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)