琉球新報と沖縄キリスト教学院大の共同企画「沖縄から育む市民力」は8月26日、第2回公開講座として、痴漢えん罪事件を描いた映画「それでもボクはやってない」を題材にした国際比較ワークショップを西原町の沖縄キリスト教学院大で開いた。この映画を東アジア各国の学生がどのように受け止めたかを調査した東京大准教授の阿古智子さんを講師に、約30人の参加者が、国家が持つ力や個人的な経験、沖縄で見える現実を話し合った。
映画では、電車内で痴漢を疑われた青年が逮捕される。青年は無実を訴えるが、警察で罪を自白したような調書を作成され、留置場に拘束されて自由を奪われる。裁判でも青年の訴えは通らず「疑わしきは罰せず」「疑わしきは被告人の利益に」と言われる刑事裁判の原則が、実現されていない現実が描かれる。
会場では、映画の概要を説明した後、グループに分かれて感想を話し合った。「授業では『疑わしきは罰せず』と伝えていた。現実とのギャップに驚いた」という教員、「自動車で事故に遭った時、警察官は最初は心配してくれたが、自分に落ち度があったと思われたとたん言葉遣いが悪くなり、犯人扱いされた。言い分を聞いてもくれない」と映画と共通する経験を語る人もいた。「基地問題で国の意向を受けたとみられる裁判官の異動があった。三権分立が機能しているか疑問」と沖縄に引き付けた意見も出た。
阿古さんは「権力の乱用を制限するために立憲主義がある。これを教える必要がある」としつつ「日本では近年『政治的中立性』という言葉で公的施設の利用を認めない、高校生の政治活動を制限するなどの動きがある。現場はどうか」と問い掛けた。参加者からは「自分自身が立憲主義をよく分かっていない」「『事なかれ』で深く突っ込む授業ができていない」などの回答があった。
講師 阿古智子・東京大准教授 制度改善 多様な声反映を
30年来中国と関わり、フィールドワークを続けて中国の変化を見ようとしている。中国では監視カメラが至るところにあり「社会を不安定にした」「政権転覆を図った」と逮捕される弁護士やジャーナリスト、大学教員、少数民族などが増えている。なぜこうなってしまったのかと思うが、日本もよそ事ではない。
国際比較調査では人権を身近な例で理解するためこの映画を使い、中国、香港、台湾と日本の学生にアンケートを取り、議論してもらった。映画中にある「国家に対抗する」という言葉をどう捉えるかという問いには、日本以外では「闘ってはならない」とする回答が多い。中国は政府が裁判に介入し、判決を覆すこともできる制度があり、異議申し立ては非常に大きな挑戦だ。逆に日本では「国家は過ちを犯さない」とする回答があった。
日本は権力の暴走を防止する制度設計はあるが、制度に100%はなく、何が正しいかは常に時代に影響される。最高裁・裁判官への国民審査が十分理解されていないように、制度があることと制度が実行されているかは別問題だ。常に「これでいいのか」と疑問の目を向け、いろんな声を反映させて必要に応じて変えていくことが大切だ。