「はいたいコラム」 小さな棚田と離島の強さ


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 島んちゅのみなさん、はいた~い!9月8、9日の2日間、長野県小谷(おたり)村で全国棚田サミットが開かれました。24回目の今年は自治体や研究者、写真家や棚田サポーターなど国内外から600人が集いました。

 長野オリンピックの開かれた長野市と白馬村に隣接する小谷村は、栂池高原スキー場でも知られる豪雪の山間地です。村長の松本久志さんは、「村で貴重なのは平らな土地。全国有数の地すべり地帯で、2%しか農地がない上に水田は半減し、今では100ヘクタールほどだ」と語りました。

 衝撃的だったのは、村の農業に対する補助金が4億8千万円なのに対し、村内の農業所得の総額は、マイナス3700万円だというのです。では、支出ばかりでもうからない農業は、切り捨ててしまえばよいのでしょうか。答えは言うまでもありません。そもそも「棚田」とは、そうした地域の課題をプラスに変えて、食料を作るために発達した知恵と文化の結晶なのです。

 興味深かったのは、分科会で「世界の傾斜地農業を語ろう」と題して、台湾、フランス、ペルーなど海外の研究者が参加していたことです。彼らが棚田(RICE TRRACES)と同じぐらい注目していたのは、「里山(SATOYAMA)」という概念です。国連大学と環境省の提唱した「SATOYAMAイニシアティブ」という日本から発信された考えが、国際的に推進されているのです。自然と人がほどよく共生してきた里山の暮らしが、生物多様性などの自然環境にも、人間社会にもよい効果をもたらしていることは、地球規模の関心事なのです。

 そこで、小谷村では「棚田オーナー制度」に力を入れ、都市部から多様な主体が関わることで、食料生産だけでなく、地域の環境や文化を知ってもらおうとしています。

 最後になってしまいましたが、このたびの北海道地震にお見舞いを申し上げます。特に酪農では停電により搾乳ができず、牛の乳房炎や生乳廃棄など、大きな被害がありました。特筆しておきたいのは、北海道全面停電の中、利尻島や礼文島は島独自の発電だったために、停電を免れたそうです。

 離島と棚田には共通点があります。大規模、一局集中よりも小さく多様な独自の暮らしが、時にしなやかで強いのです。いざという時、幾分かは自前でまかなえる自立が、本当のレジリエンス(立ち直り力)ではないでしょうか。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)