10月21日投開票の那覇市長選挙まで1カ月を切った。現職の城間幹子氏(67)=無所属=と県議の翁長政俊氏(69)=自民、公明、維新推薦=が出馬を表明しており、一騎打ちになる見通しだ。那覇市の子育て、財政、経済、福祉、地域コミュニティー、暮らしに関するデータを基に市政の課題を探った。(’18那覇市長選取材班)
◆待機児童数減 施設増に保育士確保追い付かず
待機児童ゼロを掲げた城間市政。那覇市内の認可保育園は2016年度の86園から18年度には141園まで増え、保育定員は2014年度の7163人から18年度には1万1405人までに増えた。それに伴い、待機児童数は、全国3位、県内1位だった16年度(4月時点)の559人から、18年度には138人。ゼロには届かないが、4年間で7割減少した。
認可保育園の増設は、認可園の整備を補助する2015年度から始まった国の子ども・子育て支援法の効果がある。国、県、市の補助メニューで認可保育園が建設しやすい環境が整った。那覇市では、他市町村に先駆けて、県外の社会福祉法人や企業の参入を認め、間口を拡大した。
一方、急な増園で保育士不足が深刻化している。18年度には、保育士不足数が前年度から21人増の75人になった。那覇市は、保育士確保に向けて、保育士の資格を持ちながら保育関連の仕事に就いていない「潜在保育士」に就職祝い金を支給する市独自の支援策を講じている。
新設園では3~5歳児の定員が埋まらず、待機児童がいながら定員割れの園が生じた。市は定員割れが生じたクラスの定員を0~1歳児に移行するなどの定員調整を実施したが、待機児童の多い0~1歳児では保育士が担当できる児童の数が少なく、大幅な改善には至っていない。認可園の新設場所に対して、地域的なミスマッチを指摘する声も上がっている。今後は保育士確保を中心に、利用者のニーズに応じた施策が課題となる。
◆高い要介護認定率 重度化防ぐ施策強化へ
第7次なは高齢者プランによると、那覇市は介護が必要な高齢者の割合を表す要介護認定率が全国と比べて高く、他の類似中核市と比べても大きく上回っている。特に生活全般に介護が必要となる「要介護3」以上の重度認定者の構成比が高く、重度化を防ぐためにも介護予防の施策や健康づくりが課題だ。
2018年4月の改定で那覇市の介護保険料基準額(月額)は7055円となり、前回改定時より905円増えた。介護保険料は一般的に高齢化率や要介護の認定率が高い自治体ほど、保険料が高くなるといわれており、那覇市は全国の都道府県所在地と政令指定都市の計52市区のうち、大阪市に次いで2番目に高くなっている。
市は高齢者が地域で暮らせるよう、介護予防・生活支援サービス事業と一般介護予防事業を一体化した「介護予防・日常生活支援総合事業」を開始した。18年度は、地域包括支援センターを12カ所から18カ所に増設するなど、取り組みを強めている。
一方、働き盛り世代の健康にも課題があり、40~64歳の介護保険の2号認定者率も高い状況が続いている。特定健診の受診率は全体でほぼ横ばいで推移しているものの、40~50代の受診率が18~26%と低く、疾病の早期発見が遅れている。受診率の向上に向けて、働き盛りの世代の健康意識を高める施策が求められている。
◆自治会加入率 減少一途 17・3%
那覇市の2017年4月末の自治会加入状況は、14万9723世帯に対し、自治会加入世帯数は2万5857世帯で、加入率は17・3%だ。13年以降、加入率は減少傾向にあり、4年間で3・6%減となった。地域でのつながりの希薄化は、子育てや防災、高齢者福祉など全ての施策に通底する課題だ。
自治会加入率の減少について、市まちづくり推進課は核家族化や高齢化が原因の一つとみる。また、市内には自治会がない地域もある。本庁、真和志地域では、自治会の組織化が比較的進んでいない。
那覇市は、地域コミュニティーの再生や強化に向けて、校区ごとの「校区まちづくり協議会」の設立支援を実施した。同協議会は、小学校区単位の地域で活動する自治会や学校、PTA、NPO法人などが緩やかにつながる組織。18年9月までに7小学校区で協議会が設立された。1校区で設立準備中、十数校区が関心を示している。
一方、既存の団体に属していない人と地域との関わりが課題とされている。
◆非正規率 全国平均超え
2017年の就業構造基本調査によると、那覇市の労働者のうち、正規雇用は56・6%、非正規雇用は43・4%だった。非正規雇用者の割合は、全国平均が37・3%だったのに対し、那覇市は6・1ポイント高くなっている。労働者の処遇改善策が求められる。
雇用者報酬や企業所得、財産所得を含んだ市町村民所得を人口で割った「1人当たりの市町村民所得」では、那覇市は248万5千円(14年度)となっている。01年と比較して15万8千円増え、県平均を上回った。一方、人口が同規模の福島県郡山市は315万3千円となっており、那覇市は66万8千円下回っている。所得向上に向け、経済対策も有権者の関心となりそうだ。
◆続く扶助費増、改革急務
那覇市の財政状況を見ると、歳出の中で福祉サービスなどに使われる「扶助費」の割合が35・56%(2016年度)に上り、全国で54ある中核市の中で4番目に高い。歳入に占める地方税も年々増加しているものの、扶助費の伸びには追い付いておらず、12年度には地方税収入と扶助費の支出額が逆転した。将来的に安定した財政運営に向けて、歳入の増加策や行財政改革は喫緊の課題だ。
扶助費は生活保護費や障害福祉サービス等給付金、施設型保育の運営費負担金などに使われている。国の制度変更などで、それぞれの事業費の増減があるものの、08年度決算で歳出に占める扶助費の構成比は25・3%だったが、年々1~3%ほど増えている。17年度決算の速報値では37・9%に上った。
高齢化が進むにつれ、扶助費は今後も伸び続けることが予測される。一方で、市の人口は15~20年の間にピークを迎え、その後減少となる見通しだ。15年の国勢調査で市の人口は31万9435人だったが、市の推計では60年には25万4千人まで減少するとされる。働き手の減少による地方税収入の減少も見込まれる。
第5次市総合計画基本構想では、土地の高度利用などを促進しつつ、人材や企業の集積によって財政力を高める将来像が描かれている。各候補者には福祉サービスを充実しつつ、歳入増に向けた具体的な政策が求められている。
◆観光収入は3400億円 市場の地元客離れ顕著
県経済の好況に伴い、那覇市内の経済も活況と言われている。市内を訪れる観光客も年々増加。2017年は828万人と800万人を突破し、過去最多となった。観光収入は3406億円に達している。
クルーズ船の寄港隻数は17年が224隻で、48万4610人が乗船した。クルーズ船の寄港が観光客数を押し上げる大きな要因となっている。
多くの観光客が訪れる国際通りや公設市場などのマチグヮーだが、地元客離れが顕著になっている。16年の那覇市民意識調査によると、市民が公設市場などのマチグヮーに行く回数は「年に1~2回」が最も多く38・3%。「全く行かない」が28・8%を占めた。「月1回以下」が8割を超えた。国際通りの利用も「月1、2回以下」と答えた市民が85・4%で9割近くいた。「全く行かない」という市民が20%で、調査を始めた10年以降最多だった。
19年度から公設市場の建て替え工事も始まり、中心市街地の様相も変わる。那覇市の地域経済活性化に向けて、今後は、観光客だけでなく、地元客の取り込みも重要になる。
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