主催者発表で約3千人が参列した翁長雄志前知事の県民葬には、菅義偉官房長官をはじめ政府与党の要人や野党の代表者ら、生前翁長氏と関わりのあった政治家や経済人らも参列した。県内の政治家らはウチナーグチで遺影に語り掛け、翁長前知事の辺野古新基地建設阻止を貫いた遺志を継ぐ決意を新たにした。一方、菅官房長官が追悼の辞で沖縄の過重な基地負担を軽減すると述べたのに対し、会場からはやじが飛ぶ一幕もあり、政府への根強い反発や不信感が浮き彫りになった。
9日の翁長雄志氏の県民葬は、米軍普天間基地の県内移設を推し進める形で翁長県政を追い込んだ菅義偉官房長官が参列する中、玉城デニー新知事が翁長県政の辺野古新基地建設阻止の姿勢を継承する姿勢を明確にし、安倍政権と新県政の今後の関係を占う第一幕ともなった。菅氏は辺野古移設には触れずに政府の従来方針を踏襲し、一般参列者のやじを浴びながらとんぼ返りで会場を後にした。新知事との基地問題などのやりとりはなく、両者の距離は擦れ違いに終わった。
菅官房長官は安倍晋三首相の弔辞を代読する形だったが、自身も頻繁に用いる「政府としてもできることは全て行う、目に見える形で実現する」というフレーズを強調。沖縄の基地負担軽減担当を兼務し、米軍北部訓練場の過半の返還など自身を中心に官邸主導で沖縄問題に当たってきた自負をうかがわせた。
しかし、菅氏はこれまで普天間飛行場の辺野古移設を「唯一の解決策」として譲らず、新基地建設工事を推し進めて翁長県政と激しく対立してきた。にもかかわらず「翁長前知事は、沖縄に基地が集中する状況を打開しなければならないという強い思いを持っていた」と述べた上で、翁長氏の政治姿勢を引き合いに政府の負担軽減の取り組みを強調したことで、翁長氏を悼む参列者の感情を逆なですることとなった。
弔辞を読み終えた菅氏は自席に戻る際に会場に一礼したが、玉城知事は目を閉じたまま膝の上で固く拳を握って礼を返さなかった。わずかな時間の中で、妥協しない意志を政権に伝えた格好だ。
一方で、県民葬を終えた夜の県庁では、先の内閣改造で初入閣した宮腰光寛沖縄担当相が就任あいさつで訪れ、職員が花束を贈るなど沖縄振興をテーマに和やかな雰囲気に包まれた。ただ、安倍政権の閣僚との初面談の席となり、玉城氏は提出した要望書に辺野古移設断念の項目があることにあえて言及した。
翁長氏が辺野古移設阻止を掲げて当選した際には官邸は4カ月にわたって対話を拒んできた。今回、玉城知事が11日にも就任あいさつで上京を予定する間に、首相や官房長官が面談に応じるかが焦点となる。
宮腰氏との面談後、記者団との質疑で玉城知事は、菅氏が述べた負担軽減について「具体的に基地問題を解決したいと言うのであれば、辺野古の新基地建設反対という県の取ってきた行動、私がそれを引き継いでいること、それは県民の投票結果からも明らかだということを伝えていく」とくぎを刺した。
その上で「今後、改めて安倍首相と話をさせていただく機会をつくってほしい」と述べ、政府中枢との早期の対話に意欲を示した。 (与那嶺松一郎)