インターネット上で「このおじいちゃん、何者?笑」「パネェ(半端ない)なWWW」と爆発的話題を呼んでいる74歳の男性が、県内にいる。
北谷町の安良波公園で琉球ゴールデンキングスの選手と3点シュートで対決し、勝利。主将の岸本隆一選手も「正式に負けた?」と口をあんぐりさせた。その様子が昨年10月、動画投稿サイト「ユーチューブ」で公開され、11日現在の再生回数は11万3千回を超える。
さらにユーチューバーとも3点シュートで対決。その6分50秒の動画は昨年末の公開以降、再生回数106万1千回を数える。「神様」「伝説」「バスケ界の亀仙人」とも呼ばれる男性は一体、何者だろうか。その実像を探ろうと、取材班は安良波公園に飛んだ。
神様は、いた!
トーン、トーン、トーン。北谷町の安良波公園に着くと、ボールが弾む音が聞こえてきた。もしや―。
「はい、私です。スリーポイントの宮城です」。小柄な体にハスキーな声。この男性が「スリーポイントの神様」とも呼ばれる宮城善光さん(74)か。
「自慢じゃないけど、米国人に500連勝中。(米プロバスケットボールNBAの元スター)マイケル・ジョーダンでも私には勝てません。NBAよ、かかってこい!」
宮城さんは至って真顔。冗談ではないようだ。
シュートを見せてもらおう。トーン、トーンと2度ボールをついて、ビュッ。ボールは放物線を描き、リングの中にすとんと吸い込まれた。宮城さんは涼しい顔をして、もう一投。これまた、すとんっ。
約四半世紀、ひたすら3点シュートを投げ続けてきた宮城さん。全ては「米国に勝つため」だった。
すべては「米国に勝つため」
宜野湾市野嵩に生まれ、米軍普天間飛行場の近くで育った。いつも騒音に悩まされた。
「米国は沖縄を踏ん付けておいて、やりたい放題している。がってぃんならん!(納得いかん)」
成長するに従い、そんな思いを抱くようになった。大学で英文学を専攻しつつ、スペイン語やドイツ語など5カ国語を学んだ。「米国に勝つため」だった。
20代後半でレジスター販売の会社を立ち上げた。全国で売って、売って、売りまくった。会社は急成長。一方、50歳を前に「100メートル歩くのもきつい」と感じるほど、体はボロボロになっていた。その頃に出会ったのが、米国が世界一を誇るバスケだった。
走るのはきつい。飛ぶのはなおさらだ。でもシュートなら米国と勝負できる。会社は息子に任せ、県総合運動公園で1日12時間の猛特訓を始めた。まずはゴール近くから。
「54回投げて一度も入らんかった」。脳内にレジが入っているのか、宮城さんは具体的な数字を挙げて説明する。
午前、午後、夕方。それぞれ100本入るまで投げ続けた。フォームは「我流も我流。誰もまねできない」。小学生に声を掛け、フリースローで勝負した。「3年ほどで敵なし」に。さらに中学生、高校生と勝負を挑み、数年で「敵なし」状態になったという。
“主戦場”を安良波公園に移し、米軍人らと3点シュートで対決するようになった。「トイレで用足しながらも『神様、米国に勝てますように』と祈った」からか、連戦連勝。ついには昨年夏、宮城さんの前にプロ選手が立ちふさがった。
プロに勝った!
スポーツブランド「アンダーアーマー」のプロモーション動画の撮影で、琉球ゴールデンキングスの岸本隆一選手、田代直希選手、渡辺竜之佑選手(現在は新潟アルビレックスBB)の3選手が安良波公園に現れた。「あのおじいちゃんが伝説のおじいちゃん。このコートの支配者」と岸本選手が紹介する。
宮城さんは田代、渡辺両選手と3点シュートで対決し、見事勝利した。岸本選手は「正式に負けた?」と口をあんぐり。日本代表候補の経験もある田代選手は「負けました」と宮城さんに握手を求めた。
この対決を収めた動画がユーチューブで公開されると、宮城さんの知名度がぐんぐん上昇。県外のユーチューバーも3点シュート対決に訪れ、その動画(「3Pシュート500連勝中のお爺と勝負してきた!!」)は11日現在、106万回以上視聴されている。
コメント欄には「おじいちゃんに化けたプロかなんかだと思って見たら本当におじいちゃんでびびった」「天才としか言いようがない笑」「おじい…神やな…(笑)」など称賛の言葉が並んでいる。
伝説はつづく
再び安良波公園のバスケットコート。南国の太陽がガンガン照りつけ、気温は30度を軽く超えた。
「あのおじいちゃん、スリーポイントの人ですか?」
シュート練習をする宮城さんを見て、長身の男性が記者に尋ねてきた。7月に大阪から中城村に移住した湯浅海樹さん(30)。ユーチューブで宮城さんを知ったという。
「勝負しますか?」と宮城さん。隣のコートで俊敏な動きを見せるラシッタ・フレデリック・リュウさん(18)にも声を掛け、3点シュート対決が決まった。
選手を紹介する。
①湯浅海樹。身長185センチの豪腕。中学からバスケを始め、関西外国語大学在学時、現在プロの神原裕司選手とプレーした。
②ラシッタ・フレデリック・リュウ。身長191センチ。米軍人の父を持ち、NBAプレーヤーを目指して日夜、自主練に励む。
③宮城善光。身長163・5センチ。7~8年前から2センチ近く縮んだらしい。3点シュートの「レジェンド」。声が大きい。
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試合は10本先取で勝利。順番に5本ずつ投げる。
まずは湯浅さん。1本目を決めたが、後は「あー」とため息ばかり。
次はラシッタさん。抜群の跳躍力を見せるものの、リングに嫌われる。
最後に宮城さん。猫が飛び上がるような独特のフォームながら、6本連続で成功。40~50歳若い2人に圧勝した。
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3人はがっちり握手を交わし、記念撮影。湯浅さんは「話には聞いていたけど、すごい強かった。プロでも遜色ない。フォームは…めちゃくちゃですよ。それでも入る。もう脱帽」。
対する宮城さんは「勝つのが当たり前だから」と涼しげな顔。バスケ界の「生ける伝説」として、インターネットでも沖縄でも、まだまだ話が弾みそうだ。
(真崎裕史)
アンダーアーマー「UAバスケットボール WE WILL. 琉球ゴールデンキングス」