「はいたいコラム」 見える放牧でクレームゼロ


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 島んちゅのみなさん、はいた~い!ヤギと牛の混合放牧を、富山県高岡市で初めて見てきました。クローバーファームを夫婦で営む青沼光さんは32才、就農4年目の若き酪農家です。広島県出身で両親ともサラリーマン、農業とは何の縁もありませんでしたが、子供のころテレビで見た牛の放牧風景に憧れ、「こんな仕事がしたい」と酪農の道に進みました。

 ヤギと牛を一緒に放牧すると、牛はイネ科の牧草を好みますが、ヤギはそれ以外を満遍なく食べるため、よい草地になるそうです。放っておけば家畜が土地を耕してくれる。家畜の能力を引き出す牧場経営です。

 青沼さんのアイデアはまだまだほかにもあります。富山で離農する牧場を引き継ぐことになったとき、導入する子牛価格が高騰し、未経産牛が100万円にもなっていました。そこで、悩みに悩んだ末にひらめいたのが、廃用牛の活用です。ほかの酪農家が不要だと判断した年かさの母牛を、なんと5分の1の値段(20万円)で買い集め、結果として41頭中26頭が元気に健康な牛乳を出してくれたのです。

 一度は役目を終えてお肉になる運命だったホルスタインを再生させて長生きさせたのですから、経営だけでなく、生き物の命を考える上でも多大な貢献です。酪農の世界には「長命連産」効果という言葉があります。一般的にはよくお乳を出す母牛が重宝されますが、長期的に見ると、元気で長生きしたほうが、“牛人生”のトータルでは、よい業績を残したことになるのです。家畜の命を尊重するアニマルウェルフェア(動物福祉)や、多様な個性を活かし合うサステイナブルな食料生産の道しるべになる取り組みです。

 さらに私が感動したのは、この牧場は都市近郊の水田地帯にあるにもかかわらず、クレームが1件もないということ。その理由を青沼さんは、地域と積極的に関わることで、「クレームを言いにくい雰囲気をつくる」と教えてくれました。放牧で酪農を見える化すると、近隣の事業者がソフトクリームやジェラートなどを作るようになりました。農を開放すればファンも仲間も増える。牧場の存在はむしろ地域の誇りです。かつて自分が放牧に憧れたように、ひたすら明るくオープンな牧場経営を貫く。このポジティブさに学ぶことは多いと思いました。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)