待機児童解消を優先、保護者と溝 西原町の保育園認可化、通園継続の危うい子も


この記事を書いた人 Avatar photo 与那嶺 明彦
「手押し車」などの運動をする園児たち=沖縄県西原町

 沖縄県西原町の認可外保育園「こばと保育園」が本年度で閉園し、隣接地に建設中の認可保育所「こばとゆがふ保育園」が来年4月に開園することに伴い、在園児の継続保育が危ぶまれている。西原町はこばとゆがふ保育園について「新規開設なので在園児保障には当たらない」と継続保育に否定的な見解を示しており、0~6歳児までの特徴ある一貫保育に魅力を感じて子どもを入所させている保護者との溝は埋まっていない。

 認可保育園の増設などで待機児童解消に取り組む自治体と、質の高い保育を継続して受けたいという保護者の願いの妥結点を見いだすことの難しさが浮き彫りになった形だが、専門家は「保護者がその保育を望んでいるのなら、優先的に配慮しなければならない」と指摘する。

 「奇跡みたいなことがたくさん起きている」。こばと保育園に息子を通わせる沖縄市在住の女性は目に涙を浮かべる。息子は生後6カ月で脳症を発症し、脳に障がいが残った。医者からは「もう歩けないだろう」と言われた。

 女性は、さくら・さくらんぼ保育園(埼玉県)創設者の故斎藤公子氏が提唱した、障がい児を含めた0~6歳(年長児)までの一貫保育を実践するこばと保育園に魅力を感じた。母子通園で斎藤氏考案の「リズム体操」や、背骨や足の親指を意識して動かして脳に刺激を与え続けた。

 他の障がい児同様、息子も見違えるよう成長した。3歳で歩き始めた息子は会話もできるようになり、年長に上がることを目標にしているという。

 女性は「こばと保育園に通えていることが幸せだ。跳び箱や縄跳び、絵本の読み聞かせなど、年長でしかできないことを息子は楽しみにしている。どうかここの保育を受けさせてほしい」と切実な様子で話す。 保護者らは口をそろえて「素晴らしい保育を実施している」とこばと保育園を評価する。

 一方、1978年以来、親族で運営してきたこばと保育園は認可外のため行政からの補助がほとんどなく、財政面や保育士の処遇などについて課題があったという。

 こばと保育園は「保育を広げたいが、運営の厳しい認可外では限界があった。認可園として再出発し、斎藤公子先生の保育を継承したい」と話す。

 西原町によると、9月末現在で町内の待機児童数は231人。

 同町は来春開園予定の「こばとゆがふ保育園」に待機児童を優先的に配置する方針を示しており、町外から通う在園児の継続保育は厳しい状況だ。

 保育行政に詳しい元帝京大学教授の村山祐一さんは「保育を受ける権利を保障する児童福祉法に基づき、行政は親の希望を聞き入れ、継続保育に向けて自治体間で協議すべきだ。越境して通園を希望する世帯を排除することは、保育を受ける権利を否定することになる」と指摘した。
 (松堂秀樹)