「浦添運動公園に薬剤が散布されて、芝生や草が枯れてしまった。農薬が使われたのではないか? 調べてほしい」
今月15日、浦添市の男性(79)から取材班にそんな声が寄せられた。広大な浦添運動公園内の、高台にある広場。訪ねてみて驚いた。青々とした芝生と、枯れて茶色くなった草が奇妙なコントラストを見せている。男性が言った。
「公園が、まるで砂漠になってしまった…」。さらに不安げな顔で「近くの園児が遊びに来て、バッタを捕ったり、四つ葉を取ったりする場所。農薬が使われていたら心配だ」。
子どもらが遊ぶ公園で、本当に農薬が使われたのか。安全管理は大丈夫か。所有者の浦添市や管理業者を取材すると、驚くほどずさんな実態が浮かび上がってきた―。
市は安全強調
「公園に農薬」―。にわかには信じ難い話を確かめようと、取材班は浦添市役所を訪ねた。浦添運動公園を所管する市教委文化スポーツ振興課。玉城尚課長が「言葉の正確性を」と記者の前に録音機を置き、インタビューは始まった。
玉城課長によると、9月17、18日の2日間、指定管理者が除草のため薬剤をまいた。薬剤は成長調整剤。玉城課長は「カテゴリー的には農薬。飲んでも安心かと言えば、NGだ。ただ国の基準をクリアした製品。人体への安全性は担保されている」と強調した。
取材の2日後、市は公園の近隣50世帯に「報告書」を配布した。どのような薬剤を使ったのか、散布を目撃した住民から説明を求められていたからだ。
報告書には薬剤のチラシが添えられ、嵩元盛兼教育長名で「人体及(およ)び環境へ悪影響を及ぼすのではないかとご心配をおかけしました」と陳謝。その上で「無害であるとご報告すると共に、指定管理者へ今後散布を行わないよう指導してまいります」と記している。
ずさんな管理 業者、立ち入り規制せず
浦添市教育委員会が言うように、本当に人体への安全性は担保されているのだろうか。農薬に詳しい専門家を訪ね、聞いてみた。
■「まき過ぎた」
「えっ、これはちょっと…」
浦添運動公園の写真を見せると、琉球大の多和田真吉名誉教授は言葉を失った。専門は農薬科学。まいたとされる成長調整剤について「毒性はあまりない」としつつ「成長調整剤は植物のホルモンに働き掛け伸びを抑えるもので、枯らせるものではない。濃度が濃すぎたのか、別のものをまいたのか?」。枯れた草を見て疑問を投げかける。
市は報告書で「念入りに散布した結果、散布量が多くなったことに加え、台風の塩害が相まった」としている。その見方に対しても、多和田名誉教授は「それはおかしいでしょう。塩害なら一様に影響が出るが、枯れているのは農薬をまいた所だけ」と苦笑した。
浦添運動公園は本年度から5年間、那覇市の共同企業体が指定管理者となっている。委託料は年間約1530万円。実際の管理は下請け業者(那覇市)が担っている。現場責任者を直撃した。
―なぜ農薬をまいた?
「のり面の雑草の伸びが想定より早かった。作業効率と作業員の安全を考え、やむなく散布に至った」
―枯れている。
「希釈濃度は基準の上限だったが、濃くまき過ぎてしまった。ここまで効くとは想定外だった」
―のり面だけでなく、遊具周辺もまかれている。
「指示ミスがあった」
―メーカーは「安全使用上の注意」として、公園で使用する場合、少なくとも散布当日は人を近づけないよう配慮を求めている。
「ロープで立ち入り禁止にしたり、事前周知をしたりすべきだった。安全管理の意識が低かった」
この責任者は作業員がマスクも着けずに農薬を散布したことも認めた。浦添市は取材班が指摘するまで、それらの事実を把握していなかった。
■他市は使用せず
浦添市以外でも、公園に農薬をまいているのだろうか。県内10市の担当者に聞くと、「草は刈り取る。農薬は住民に不安を与えかねない」(沖縄市)、「『除草剤は使わないで』と委託業者に伝えている」(那覇市)などの回答が相次いだ。浦添市以外で農薬使用は「ゼロ」だった。
今回の問題に沖縄国際大の照屋寛之教授(行政学)は「指定管理制度の悪い面が出た」とし「行政側にも責任がある」と指摘する。
「指定管理者は安全よりも効率を優先する。市民が安心して施設を使えるように、行政は指定管理者に任せっきりではなく、絶えず管理の実態をチェックしないといけない」と話す。
浦添運動公園は10月から「ANA SPORTS PARK 浦添」と名称が変わった。市は農薬で枯れた部分に種子を吹き付け、「緑を回復したい」という。この際、市自身も「変わった」所を見せ、市民の信頼を「回復したい」ところだ。
(真崎裕史)