政府、移設既成事実化狙う 県、民意を背に対抗


この記事を書いた人 Avatar photo 桑原 晶子
東京都内で取材に応じる沖縄県の玉城デニー知事(中央)=30日午後

 米軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設を巡り、翁長雄志前知事による埋め立て承認撤回の効力を失わせる執行停止を石井啓一国土交通相が決めたことで、沖縄防衛局は本格的な土砂投入を前に止まっていた埋め立て工事を再開させる。政権として異例の支援を展開しながら敗北した県知事選からわずか1カ月。訴えと救済を同じ内閣の中で処理することに批判が集まる行政不服審査法による手続きを強行し、選挙結果を無視する姿勢が鮮明となった。県内外の世論を背に対抗策を練る玉城デニー知事は、土砂投入で移設を既成事実化したい国との対立で早くも正念場を迎える。

 県土木建築部海岸防災課に30日午前9時すぎ、県の撤回に対する執行停止決定の連絡があった。玉城知事は31日に日本記者クラブでの講演会出席などのため沖縄をたっており、基地を所管する謝花喜一郎副知事も国政野党の合同ヒアリングに出席するために東京にいた。県庁内では情報収集や東京事務所との連絡など対応に追われた。

 ■わずか5日

 玉城知事は到着後の午後1時、県東京事務所がある都道府県会館で記者団の取材に応じて「事前協議が調うことなく工事に着工することや、ましてや土砂を投入することは断じて認められない」と、執行停止が正式に決まる31日以降の沖縄防衛局の出方にくぎを刺した。

 日本記者クラブでの講演でも、翁長県政の継承による辺野古新基地建設反対の訴えで過去最多得票を得たことによる沖縄の民意を、国内世論に訴える構えだ。

 本年度決算を審査する県議会総務企画委員会でも、執行停止の報道を受けて県議から質問が上がった。池田竹州知事公室長は「内閣として辺野古が唯一というような方針が確認されている中で、国交相に適正な審査は行えないと主張してきた」と県の立場を強調。「意見書の提出から5日で執行停止の決定が出されたのは極めて残念だ。提出した書類をきちっと精査していただいたのかという疑問もある」と不快感を隠さなかった。

 ■出来レース

 県は15年11月から今年7月まで23回に渡り、護岸の建設工事を停止して事前協議に応じるよう指導してきた。翁長前知事が7月27日に埋め立て承認の撤回に踏み切る方針を表明し、工事を止めるための聴聞手続きに入った。沖縄防衛局は8月14日にも護岸で囲った区域に土砂を投入できる手はずを整えていたが、撤回処分の決定前の土砂投入は見送った。翁長氏が8月8日に急逝し、前倒しになった知事選への影響を警戒した官邸の判断があったとみられる。

 8月31日には翁長氏の遺志を引き継ぐ形で副知事が埋め立て承認を撤回し、海上での工事は法的に停止となった。ここでもすぐに行うと見られた撤回への対抗措置は、知事選まで動きを見せることはなかった。

 県幹部は「土砂投入も撤回の対抗措置も政治的な判断でどうとでもなる。埋め立て工事の緊急性の根拠などどこにもない」と埋め立てありきの“出来レース”に批判を強めた。 (与那嶺松一郎)