〝お菓子車〟島走り45年 知念夫妻の愛車「ハイエース」引退 配達で活躍、住民惜しむ


この記事を書いた人 大森 茂夫
45年間にわたり愛車のハイエースに乗り続けた知念フヂエさんと夫の敏彦さん=8日、伊江村東江上の自宅

 【伊江】45年間にわたり沖縄県の伊江島を走り続けた車が新天地に向けて旅立った―。車内いっぱいに菓子が詰まった車を運転しながら、伊江村内の商店に配達し続けた村東江上区の菓子販売業、知念フヂエさん(70)所有の車が10日、その役目を終えた。村民の誰もが目にし「お菓子車」として親しまれた昔ながらの車が姿を消すことに、村民から惜しむ声も聞こえた。

 夫の敏彦さん(70)によると、車は復帰後の1973年に新車で購入したトヨタの「ハイエース」。6人乗りで、後部座席を改造し菓子を置くスペースを確保した。フヂエさんはほぼ毎日、この車で島内の商店を回り、菓子を配達してきた。ハンドルは重くマニュアル車だが、フヂエさんは軽々とギアを換え、慣れた手つきで運転する。

 車は島に来て以降、一度も本島に渡ったことがなく、45年間島内で走り続けた。村内の自動車工場で毎年車検を受け、走行距離は8万2千キロを超える。ナンバーは当時の「沖4」のままで、運転席のドアには伊江局の電話番号「22」(現在は49)が記載されている。事故歴もなく、大きな故障もなかったという。

運転席も購入当時のままで軽々と運転をこなすフヂエさん=8日、伊江村東江上の自宅

 時がたつにつれ、車にも劣化が目立つようになったが塗装などはせず、わずかな修理を施す程度だった。車にはエアコンもないが、フヂエさんは「夏場は車内にクーラーボックスを置いて、その中にチョコレートなどを入れて溶けないように対応した」と笑顔で話す。

 4年前に県内在住の人が、知念さん夫婦を訪ね、車を譲ってほしいと要望。今回、車を譲ることを決断した。引き取り手は、自宅に新しく車庫を作って車を保管するという。

 フヂエさんは「村内に多くの商店があったから仕事を続け、4人の子どもを育てることができた。車を手放して寂しさもあるが、しっかり保管してもらえるので良かった」と語る。敏彦さんも「45年間車には感謝している。初めて島を渡るので、娘を嫁に行かせるような気持ちだね」と目頭を熱くした。

 車が本島へ渡る姿を一目見ようと10日、伊江港には多くの村民が集まり「お菓子配達45年間ありがとう」と書かれた横断幕で見送った。知念さん夫婦も車内から手を振って見送りの人に感謝し旅立った。

 少子高齢化やコンビニエンスストアなどの出店により村内の商店も減少し続け、現在は8軒程度。フヂエさんは「村内でも80歳を超えて仕事をしている人がいるから頑張らないとね」と、まだまだ意欲的だ。今後は軽自動車に乗り替え、今と変わらず車内に菓子を詰め込んで、仕事を続けるという。
 (金城幸人通信員)