「はいたいコラム」 介護ストレス 短歌で発散


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 島んちゅのみなさん、はいた~い! 11月は介護月間ですね。介護をする人が、人に言えない思いを短歌に詠む「ハートネットTV介護百人一首」という番組(NHKEテレ)の司会を14年間続けています。

 認知症800万人時代、介護離職や介護ストレスが問題になっていますが、「闘病」と違って、老いから来る「介護」は、ゴールが見えません。期限がなく、治療やリハビリをしても劇的な回復は望めないのが一般的です。では当事者はどう受け止めればよいのか。番組で多くの経験者を取材してきて感じるのは、力まずに付き合う姿勢です。介護とは、病気と闘うのではなく、老いを受け入れ、その症状と付き合っていく日常であり「生活」そのものなのです。

 出口は見えなくても時々ガス抜きができれば、人はもう少し頑張れるのではないか。愚痴の行き先として、紙に吐き出してもらおうという考えから短歌を募集し、番組で紹介しています。その中で忘れられない短歌があります。認知症の夫(74)を自宅で介護するノブ子さん(70)が詠んだ歌です。

 「手づかみで鍋より食らう夫(つま)の背に思わず怒鳴る我未熟なり」

 ご夫婦は中華料理店を営んでいました。大黒柱だった夫が認知症になってしまった。妻にとって受け入れ難い現実です。夫を怒鳴り、自分を責める。実は根本は同じなのではないでしょうか。怒りも自責も、矛先が違うだけで、根っこにあるのは現状を肯定できない心の叫びです。不測の事態が起きたとき、人はそう簡単に「受容」なんてできません。戸惑って当然です。

 しかし、否定や悲観はため込むと心のバランスが崩れるので、外に出さないといけません。気持ちを日記代わりに発散するツールとして、ノブ子さんは短歌に吐き出したのです。三十一音と字数が限られているが故に、最も的確な言葉を探し、書いては消す作業こそ自分を取り戻す時間です。その後、ノブ子さんはこんな歌を詠みました。

 「空き缶やペットボトルを集めるを喜ぶ夫に添ひて歩まん」

 変わったのは妻の心でした。

 いま、介護現場に足りないのは、こうした心情の発露ではないでしょうか。話せる仲間がいるに越したことはありませんが、例え一人きりでも、紙に吐き出すことはできます。まずは五七五七七に言葉を当てはめてみませんか。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)