地域の課題知ろう
北中城高、キリ大生と意見交換
社会に参加する意欲や力を育てることを目指す琉球新報と沖縄キリスト教学院大の共同企画「沖縄から育む市民力」。今月は、9月の県知事選に向けて自分たちの疑問や希望や考えた北中城高の取り組みを紹介する。今月14日には、琉球新報の紙面企画「VOTE! #みんなごと 若者たちが考える知事選」で活動したキリ大の学生を同高校に招き、学び合いの場が実現した。
北中城高の社会科教諭・伊波郁教諭は知事選前の9月上旬、3年生の授業で選挙の仕組みを説明した後「候補者に質問しよう」「候補者に望むことを伝えよう」と呼び掛けた。
「18歳選挙権で有権者となった高校生もいる。でもどう判断していいか分からず、生徒たちは不安を感じていた」と伊波教諭。説明で終わらず、自分の地域で行われる選挙に生徒が主体的に関わる機会を設けた。
その際、参考にしたのが「#みんなごと」の紙面だ。大学生たちは、アルバイトの働き方や賃金など身近な問題意識を出発点に候補者の公約を学び、若者発の政策提言をしていた。
同世代で視点が近い大学生の意見に刺激され、高校生からもたくさんの意見が出た。「交通渋滞をどう改善するか」「基地がなくなると沖縄経済はどうなるか」「沖縄の最低賃金が低いのはなぜ」「奨学金の返済を緩くして」「通学のバスを増やして」―。
伊波教諭が「この大学生を呼んで話をしたいね」と漏らすと生徒たちは大喜び。今月14日の放課後、「#みんなごと」に参加したキリ学生、国仲梨月さん(22)と島袋里穂さん(22)を高校に招いた。高校生は有志の3年生7人が参加した。
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14日は大学生が取り仕切って約1時間、県知事選をテーマに意見を交わした。「基地問題は誰が知事になっても付いてくる。基地以外のことを言ってほしかった」「落選した候補に投票した人もいる。当選した人は、落選した人の公約も取り入れてほしい」。大学生に促され、田中真愛さん(17)、永山莉乃さん(17)、赤嶺樹涼さん(18)、山川千穂子さん(18)の班の話は弾んだ。
国仲さんから選挙前に候補者が配布した公約集の冊子を見せられた高校生4人は「こんなものがあるの」と驚いた。「情報収集の仕方も分からない。どんな方法があるのか発見したい」「知らないことが多い。このまま卒業したら知らないまま生きていくはず。学校で教えてほしい」との声も上がった。
コーブ・ディランさん(18)、渡久地杏奈さん(18)、玉城享さん(17)の班は、基地問題から発展してフェイクニュースの話題で持ちきりだった。「沖縄を守る米軍がいなくなったら中国に攻められる」「それは信ぴょう性がない。SNSに踊らされている」「新聞はうそは書かないけど米兵の善行は取り上げない。基地の悪いイメージがなくならない」―。SNSがもっぱらの情報源だという3人は、信じていたエピソードにフェイクが混じっていたことも知り「真実とうそを見極める力を付けないと」とも話した。
普段、政治や基地についてゆっくり話すことはないという生徒たちだが、時間が来ても会話は途切れなかった。「みんなが興味を持っていることが分かった。意見を聞けてよかった」「話す場を持ち、知事に頼らず自分たちで考えていきたい」と主権者としての表情で語った。
「生徒、話したがっている」
伊波郁教諭の総括
大学生とのワークショップでは、最初「1時間で終わるんでしょ」と受け身だった生徒たちが前のめりで議論をし、終了後は名残惜しそうにしていた。翌日「楽しかった」と声を掛けてきた生徒もいた。
参加者の発言を引き出す参加型だったことに加えて、高校生と同世代で、成績評価に関わらない“斜めの関係”の大学生がいたからこそ、ざっくばらんな議論が盛り上がった。教員にはできないことだ。
ただ、限られた授業時数で教科書を進めなければならず、参加型を組み立てる準備時間の確保も厳しい。また授業で学んだ内容は成績を付けなければならない。教科書通りではなく、評価しづらい参加型は導入しにくいのが現実だ。
しかしこの日の大学生たちは、普段は控えめで意見を言わない生徒からも疑問や意見を引き出してくれた。普段の授業とは異なる生徒の姿、関心や生活が見えた。自分の疑問を話す姿を見て、生徒たちが話したがっていることを改めて感じ、背中を押された。参加型の授業にできるだけ取り組んでいきたい。