社会

BTS(防弾少年団)騒動 官民挙げての嫌韓ヘイト【乗松聡子の眼】

 BTS(防弾少年団)は2013年に韓国でデビューしたヒップホップ系の7人男子グループだ。その卓越したダンス、歌、ビジュアルと、若者に共感を呼ぶメッセージ性、SNSを駆使したマーケティングにより、ここ2年ほどで、Kポップの大スターであった彼らが、あれよあれよという間に、世界の大スターに飛躍した。今年になってから、ビルボードのアルバムランキングで2度もトップの座を獲得している。母国語で歌うアジアのアーティストが世界でここまでの快挙を成し遂げたことを、同じアジア系として誇りに思っていた。

 それがこの11月に入って、友人から「BTSのメンバーが以前着ていたシャツに原爆のキノコ雲が描かれていたとネットで炎上している」と言われ驚いた。そうこうしているうちに、このTシャツデザインが原因で、テレビ朝日が11月9日の音楽番組「ミュージックステーション」への出演を見送ると決定したというニュースが流れた。日本の人はそこまで原爆の被害に敏感だったのか。ならば、核武装を支持したり核兵器禁止条約に参加もしなかったりする政府の要人を平気でテレビに出すのはなぜか、と思った。

 しかし、問題は別のところにあった。これは、10月30日に韓国の大法院が、人道と法に反する労働環境で働かされた元徴用工に対し、当時の雇用主である新日鉄住金に慰謝料を支払うよう命じた判決を受けて、日本政府と日本メディアが韓国に対する大規模なバッシングを繰り広げる中で起きたのだ。在日コリアンへのヘイト活動を行ってきた排外的集団の関係者が、BTSを「反日」としてテレビ局や番組スポンサーへの抗議を扇動した。

 そもそもこのTシャツは、36年にわたる植民地支配から解放された日を象徴する「光復節」を全体のテーマにしており、その片隅に原爆の写真がある。これを不適切と見なす人もいるだろうが、韓国だけではなくアジアの多くの人々にとって、8月15日の「解放」の記憶が、その直前に起きた原爆投下の記憶と不可分になっている。この原爆のイメージは韓国の人にとっての、植民地支配の歴史を経た「解放」という出来事全体の中で捉えるもので、日本人がこの一部だけを取り出して「原爆Tシャツ」と呼ぶことは、原爆に至るまでの加害の歴史を切り落としていることになるのだ。

 BTSはその後さらに、過去に別のメンバーがナチスの模様がついている帽子をかぶっていた、彼らがコンサートでナチスを想起させる旗を持っていたと問題視され、反ユダヤ主義を監視する組織サイモン・ウィゼンタール・センター(SWC)が、「日本の人とナチスの被害者に謝罪すべき」と抗議した。これに応える形でBTS所属事務所は11月13日、SWCと、日本と韓国の被爆者団体に謝罪したことを発表した。

 私は毎年8月6日には広島にいるが、前述の排外的集団はこの追悼の日にあえて広島に集まり、大音響で核武装を訴えるような行動をしてきた。原爆漫画の名作『はだしのゲン』作者の中沢啓治氏の死後、公共図書館で『ゲン』を閉架扱いにするよう運動したのもこの集団である。

 ナチスについては、雑誌のグラビア撮影で被せられた帽子の柄のチェックが不十分であったと、BTS側は謝罪している。コンサートで持った旗については、ナチスのシンボルは使用せず、韓国の画一的な教育への抵抗を表現した歌を歌っていた。戦争映画でナチスを演じる人がナチスの服装をするのと同様、この場合も全体主義の批判をするためにそのような演出をした。そうした背景を切り離してSWCに通報した人たちの動機は、人権よりも「嫌韓」だったのではないか。

 BTS側にも不注意な点はあっただろうが、今回の騒動の本質は、いまだに植民地主義を振りかざし、韓国をたたくためなら手段を選ばない排外主義者たちの存在を認識することなしには語れない。このような集団は一連の沖縄に対するヘイト行動にも関与してきた。そしてこの者たちの暴力的言動がエスカレートしている背景には、日本政府自身による、朝鮮学校差別、日本軍「慰安婦」の強制性否定、強制労働の歴史否定等の「官製ヘイト」がある。

(「アジア太平洋ジャーナル・ジャパンフォーカス」エディター)