米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に伴う新基地建設で、岩屋毅防衛相は14日にも辺野古沿岸域へ土砂を投入する方針を表明した。これに対し沖縄県の玉城デニー知事は工事手続きや環境面から桟橋使用の違法性を指摘し、土砂の積み出し作業を停止させる措置を実行した。国は復旧が当面見込めない本部港を回避して民間港を使うなど、「バケツ一杯」の土砂投入で埋め立ての既成事実化を急ぐ。「新基地を造らせないという公約の実現に向け、全身全霊で取り組む」と強調する玉城県政の発足から2カ月、土砂投入の阻止を巡り国との攻防は重大な局面を迎える。
名護市辺野古の新基地建設に向け、土砂を搬出する本部港が台風被害などで使えない状況だったが、政府はその裏で用意周到に準備していた名護市の民間桟橋の使用計画を実行に移し、土砂投入に前のめりな姿勢を際立たせる。一方、県は桟橋が県規則などを守らず使われている不備を突いて政府をけん制し、さらに工事阻止に向けた対抗策の検討を急ぐ構えだ。20年以上揺れ動いてきた米軍普天間飛行場問題は、大きな節目となる。
■秘策
本部港の扱いが注目される中、防衛省が検討していた“秘策”が、東に約5キロ離れた名護市安和の「琉球セメント」の桟橋だった。岩屋毅防衛相は11月30日の会見で、民間桟橋を使用する可能性を問われたが「引き続き、事業者と本部町との間で(本部港の)岸壁使用許可に関する協議を行っている」と述べるにとどめた。今月3日に安和桟橋からの運搬が始まるまで、代替策についての言及は避け続けた。
防衛省が水面下で安和桟橋を使う検討を続けてきたのは「辺野古沖と違い臨時制限区域がなく、抗議行動の対応も難しい」(関係者)などの事情があったためだ。
沖縄防衛局が県に提出した埋め立て申請に関する資料では、土砂の搬出場所を「国頭地区」「本部地区」と記し、それに沿って本部港の使用が計画されてきた。琉球セメントの桟橋は本部町ではなく名護市内にあるが、防衛省関係者は「『本部地区』は採石場のある周辺の鉱山一帯を指す。イコール本部町ではない」と説明し、問題はないとの認識を示す。
政府には、辺野古新基地建設の是非を問う来年2月の県民投票やその後の国政選挙への影響を最小限に抑えるため、既成事実化を図る狙いがある。政府関係者は「2015年の埋め立て承認取り消し、集中協議、撤回などこれまで何度も工事が止まったが、もうそうはならない」と語った。
■反撃
3日朝に安和桟橋での搬出作業が始まったことを確認した県幹部は、午前10時前から県庁で担当課職員と対抗策を話し合った。県の規則で必要になる桟橋の工事完了届が琉球セメントから出されていないことなどが判明すると、県はただちに作業の一時停止を要求。実際に3日午後2時ごろには現場の作業が止まった。
玉城デニー知事はその後の記者会見でコメントを読み上げた際、原稿にはなかった「県庁職員と一丸となって」という一語を挿入し、その後に「県民の思いに応えたい」と続けた。各課が連携して問題点を洗い出し、作業停止に追い込んだ「連携プレー」を強調した。
ただ、現場での作業がいつ再開されるかは不透明で、たとえ工事を遅らせることにつながったとしても、目前に迫る土砂投入を止める根本的な決定打とはならない。
県幹部の一人は「指導を受けた相手次第だ。法令に違反しているので、当然無視するわけにはいかないだろう」と相手の出方をうかがう。
玉城知事と安倍晋三首相との会談からわずか5日後に土砂投入に向けた動きに踏み切ったことに対し、対話による解決を求めてきた県には怒りが渦巻く。別の県幹部は「政府はいかに辺野古新基地に反対する県民の政治的意思を崩すかを考えている。そのためには『何でもあり』の姿勢だ。今後も力を振りかざして裁判も現場も振興策も使うだろう」と非難した。(當山幸都、明真南斗)