琉球大学発創薬ベンチャーのジェクタス・イノベーターズ(那覇市、代表・新川武琉大大学院医学研究科教授)は、子豚に多く発症する「浮腫病」を予防するワクチンを国内で初めて開発した。3年前に欧州で開発されたワクチンとは異なるタイプで、独自の技術で安定的に量産することを実現した。生産コストを低減したため農家への普及が期待される。
浮腫病は、志賀毒素産生性大腸菌が小腸の表面に付着して腸管を破壊し、全身に広がる。人がかかる腸管出血性大腸菌O157と似た病気で、けいれんや歩行不能の症状が出る。感染から最短2~3日で死に至り、死亡率は50~90%だ。世界各地で多発し、離乳した子豚に感染し、1匹が感染すると集団で感染することもあり、農家への経済的打撃は大きい。
志賀毒素は毒素の働きを持つA鎖と、A鎖を細胞まで運ぶ五つのB鎖で構成される。欧州のワクチンは、A、B両鎖からなる志賀毒素を大腸菌につくらせた後、無毒化し、それを接種して免疫を高める仕組み。だが、大腸菌は志賀毒素を多くつくらないため、生産コストがかかる。
同社は、体がB鎖に対する免疫を高めれば、毒性を発揮するA鎖を細胞に運べなくなることに注目し、B鎖のみを活用したワクチンをつくることに成功した。B鎖のみだと分子の揺らぎが大きく不安定だが、B鎖五つを結束させる物質を融合させるなど独自の技術で課題も克服した。
日本と米国、欧州8カ国で特許を取得済みで、中国や東南アジア、南米などでも特許を申請している。共同開発したKMバイオロジクス(熊本市)が農林水産省に販売許可を申請している。本研究は新川代表が8年前に始め、県の助成金を受けるなどして研究を進めてきた。
新川代表は「このワクチンで浮腫病を未然に防ぐことができる。これからも今あるワクチンの改善やまだないワクチンの開発に取り組んでいきたい」と話した。