米軍北部訓練場返還地の地権者への引き渡しから25日で1年。国頭村安田の跡地を昆虫研究者の宮城秋乃さんの案内で歩いた。鳥のさえずりが聞こえ、チョウがひらひら舞う。やんばる国立公園に編入された緑の森に足を踏み入れ「返還」を肌で感じた。同時に米軍の未使用弾や使用後の照明弾を目の当たりにし、痛んだ森の現実を突き付けられた。
米軍北部訓練場は2016年12月、約4千ヘクタールが返還された。草木が生い茂る跡地に今月16日、道路沿いから入った。木の枝が伸びるけもの道を歩いて10分、突然目の前が開け、返還前に米軍が使ったヘリパッド跡が目に飛び込んできた。砂利が敷かれたヘリパッド跡の上に、青いビニールシートに覆われた廃棄物が放置されていた。
「国の汚染除去後も多くの未使用弾が見つかった」。宮城さんが説明する。枯れ葉をかき分け、土を熊手で掘ると「コツ」と金属の感触が手に伝わり、土の中から未使用弾が出てきた。計1時間余りで未使用弾12発。返還された森から弾を全て取り除くことを想像すると気が遠くなる。野戦用携帯食料(レーション)のビニール、産業廃棄物らしきコンクリートもあった。
山の上部から中腹まで下っていく。ピョイピョイという国指定天然記念物のアカヒゲのさえずりが森に響いたと思ったら、道の脇から固有種のシリケンイモリが飛び出す。固有種のチョウ・リュウキュウヒメジャノメはヘゴの回りを悠々と躍る。
山を下るにつれ、湿度が高くなり、土からは水が染み出てきた。だんだんと水脈になり、川をつくっている。清流に沿って歩くと、灰色でさびた使用済みの照明弾が落ちていた。唐突に現れる廃棄物は、豊かな森と川がかつて演習場だったことを再認識させる。
山の奥には直径約3メートルほどの戦前の炭焼き窯の跡が残っていた。「生活していた場所がやっと返ってきた。米軍に取られていたんだ」。宮城さんが声を弾ませた後、悔しそうな表情を浮かべた。
翌17日、安田駐在所の警察官が未使用弾の回収に訪れた。「誰が何時に見つけたの」。警察官は慣れたように尋ねる。弾は沖縄防衛局に引き渡すという。宮城さんがこの1年で見つけた弾は250発以上になる。
「キョロロロロ」。警官が弾を回収した時、すぐ近くでヤンバルクイナが存在を示すかのように鳴いた。
(清水柚里)
<用語>米軍北部訓練場返還跡地
2016年12月22日に米軍北部訓練場7513ヘクタールのうち4010ヘクタールが日本に返還された。汚染除去は米軍でなく日本側が担い、沖縄防衛局が4カ月間、廃棄物の投棄現場や過去のヘリ墜落現場など10カ所の約5万平方メートルに絞って汚染調査と廃棄物除去を実施した。その上で、17年12月25日に地主に引き渡された。
18年6月に返還跡地の9割の3700ヘクタールがやんばる国立公園に編入された。20年の登録を目指す世界自然遺産の候補地にも組み込まれる。