<沖縄から育む市民力>9 どうする「ブラックバイト」 解決へ権利学ぶ


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キリ学大 寸劇通し自己客観視

 社会参加する力を育む授業を紹介する琉球新報と沖縄キリスト教学院大の共同企画「沖縄から育む市民力」。今月は、県内の高校生や大学生の多くが経験するアルバイトについて、学生だからこそ守られるべき権利を知り、学業と両立できなくなる「ブラックバイト」から抜け出す方法を考えた、同大・玉城直美准教授の授業を紹介する。

自分たちのブラックバイト経験を寸劇にして演じる学生たち=3日、西原町の沖縄キリスト教学院大

 「今までにアルバイト経験のある人は?」「バイトと学業が両立できていると思う人は?」。玉城准教授の呼び掛けに学生たちは手元のスマートフォンに視線を落とす。スクリーン上の棒グラフが見る見る伸び、アプリを介して学生の「今」が映し出された。

 同大では、3年前から新入学オリエンテーションでアルバイトのあり方を考える時間を取っている。その成果か「今では学生のほぼ全員が『ブラックバイト』という言葉を知っていて、自分を守る知識を持つ学生も増えてきた」と玉城准教授は手応えを感じている。

 とはいえ、この日の教室では学生の94%が「バイト経験あり」と答えた一方、バイトで自分を守る知識を「持っている」との回答は24%にとどまる。授業では、県内は大学進学率や最低賃金が全国より低く、若者、特に女性の非正規労働者が多いなど、若者にしわ寄せが行く厳しい現実を説明。「バイト代に含まれる労働時間は何分単位?」「バイト中に割ってしまったお皿の代金は支払うべき?」など具体的な事例を挙げて合法的な働き方を学んだ後、学生たちはグループごとに自分たちの「ブラック体験」を話し合い、約3分の寸劇に仕立てた。

 「午後3時に出勤したが、交代する人が休んだので翌朝8時まで17時間、店頭に立たされた」「日雇いなのに4日分の給料が支払われなかった」―。現実味と厳しさが入り交じる舞台を、学生たちは共感を持って見詰め、拍手を送った。

 渡口ひなたさん(21)は「学生は『自分がいないと現場が回らない』と思わされているが、学ぶことで、会社にとって使いやすい『駒』なんだと分かった」、高良ジョナサンさん(21)は「駒扱いされるなら割り切って要求も断る」と話し、授業を通して客観的な視点を身に付けていた。

 授業は2週連続の2コマで行われた。2コマ目の柱は、権利に基づいて解決策を考えること。世界人権宣言を参照しながら「ブラック」状態からの脱出法を考え、前週の寸劇を解決バージョンに「改良」した。

 前週は上司役に言い返すことができずうつむき加減だった学生役が、「自分にも予定があるので勤務延長は無理」と主張し、「今の発言を録音した。相談窓口に持っていく」と理不尽な対応には外部の力を借りることにも言及した。準備したシナリオを超えた堂々とした掛け合いに、観客の学生からは「おおー」「かっこいい」と歓声が上がり、教室は熱気に満ちた。

 金城光紀さん(20)は「知識がないと言い負かされる。学ぶことで自信を持って反論できた」、仲間和希さん(20)は「劇にすることで自分1人で抱えず、みんなと共有できる。解決策を考えた今週は先週より成長したと思う」と晴れ晴れとした表情を見せた。

 学生たちの変容に、玉城准教授は「若い人たちには本当に力がある。学生が問題解決へ一歩を踏み出せるよう、その力を引き出す場づくりをしたい」と語った。


学生の解決力向上に有効
玉城直美准教授

 不真面目ではないのに、遅刻や居眠りが多く、課題を出せない学生が少なからずいることに大学として頭を悩ませていた。その裏にあったのがアルバイトだ。調査すると、ほとんどの学生が学費や留学費用、生活費のためにバイトをしており、長時間バイトが生活や学業を圧迫していた。

 学生たちは真面目で優しく、無理を求められて嫌だと思ってもなかなか断れない。だが学生には労働者としての権利に加えて学生として学ぶ権利がある。授業では、自分たちが持っている権利に照らして、もやもやした不満や疑問を言語化し、解決への一歩を踏み出せるようにしている。

 客観的にはブラックバイトでも、本人はそうと自覚していないことも多い。自分たちの経験を基に寸劇を作って演じ、仲間の作品を観劇することで客観的な視点を持ち、「普通」だと思っていた現実がおかしいと気付くようになる。

 自らの問題を発見し、当事者性を持って知識を活用し、解決策を考えて自立する学生を育てるために、このアクティブラーニングの手法はとても有効だ。県内では高校生からすでにバイト生活が始まる。高校でもぜひ取り入れてほしい。

 


ワークシート

 

プログラムその1

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プログラムその2

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