辺野古土砂投入あす1ヵ月 政府 拙速に推進 “反対”世界へ拡散


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 米軍普天間飛行場の移設先とされる名護市辺野古の新基地建設を巡り、政府が埋め立て土砂を投入してから14日で1カ月となる。工事中止を求める県に対し、政府はこれに応じず作業を継続している。2月の県民投票や4月以降に控える各選挙を前に既成事実化を図る狙いがうかがえる一方で、工事の手続きに不備が発覚したり、政権トップから事実誤認の発言が飛び出したりするなど、前のめりな姿勢にはほころびも目立つ。1カ月の動きを振り返った。

■ホワイトハウス請願署名 20万筆超、著名人も賛同

 昨年12月8日、ホワイトハウスの請願サイト「We the People」で、埋め立ての賛否を問う県民投票まで工事を停止するようトランプ米大統領に求める請願活動が始まった。開始から30日以内に10万筆が集まればホワイトハウスから何らかの返答が届く仕組みで、開始からわずか11日で目標の10万筆に達し、開始から30日を過ぎた1月8日時点で20万筆を超えている。

 請願の運動は県系4世のアーティスト、ロバート梶原さんが開始。署名の呼び掛けはSNS(会員制交流サイト)で瞬く間に拡散し、県出身タレントのりゅうちぇるさん、モデルのローラさん、英ロックバンド「クイーン」のギタリストのブライアン・メイさんら国内外の著名人らも署名をするなど、賛同の輪が広がった。

 ホワイトハウスへの署名を通じて、沖縄の民意を無視して強行される基地建設への疑問や、ジュゴンをはじめとする生態系や環境保全への取り組みなどで、国内外の多くの関心が「henoko」に寄せられていることを可視化した。また、沖縄で起きている問題がSNSを通じてリアルタイムで共有されている新しい展開も示している。

 市民の働き掛けが米政府中枢に直接届き、辺野古新基地建設の当事者である米国大統領をどのように動かすかに注目が集まる。

■軟弱地盤 護岸建設に遅れも

 政府が埋め立て土砂の投入に着手したとはいえ、新基地建設の工期や費用を巡ってはいまだ不透明な要素が残っている。その一つが「軟弱地盤」の存在だ。

 土砂投入から1週間後の12月21日、政府が決定した2019年度予算案で防衛省が大浦湾側の護岸建設費用の計上を見送ったことが分かった。18年度予算にもこの護岸建設費用として525億円が計上されたが、ボーリング地質調査が終了していないことなどから執行できていないという。

 防衛省のボーリング調査では、これまで地盤の強度を示す「N値」がゼロの地点が大浦湾側で確認された。識者からは、地盤が軟弱で改良工事が必要になるとの見方が示されている。

 防衛省は追加調査も踏まえ地盤の強度を総合的に判断するとしている。岩屋毅防衛相は「現段階で工期や総予算を申し上げることはできない」とする一方で「軟弱地盤を克服し工事を進めることは、工法によって十分可能だ」と説明している。

 改良工事が必要になれば、工期が長期化し工費も膨らむ可能性がある。県は独自にまとめた試算で、新基地建設の工期に13年、予算に2・5兆円を要するとして、現行計画こそが普天間飛行場の固定化につながると指摘している。

■首相発言 「サンゴ移植」誤認識

 名護市辺野古の新基地建設で、安倍晋三首相は6日に放送されたNHK番組で「土砂投入に当たって、あそこのサンゴは移植している」と誤った認識を述べた。現在土砂が投入されている辺野古側の海域「埋め立て区域2―1」からはサンゴを移植していない。

 10日に菅義偉官房長官が「辺野古側の埋め立て区域に生息していた移植対象のサンゴは全て移植した」と釈明したが、辺野古側で移植対象となったのはオキナワハマサンゴ1群体だけだった。対象ではないサンゴが多数生息したまま政府は土砂投入を進めている。

 防衛局は、大きさが1メートル以上と希少種、深さ20メートルより浅い場所に生息するサンゴに絞って移植対象としており、県が基準の妥当性に疑問を呈していた。

 対象となったのは埋め立て海域全体で約7万4千群体だが、これまでに移植が終わったのは「埋め立て区域2―1」以外のオキナワハマサンゴ9群体だけだ。

■人事 「ヤマ越えた」と防衛局幹部交代

 埋め立て土砂の投入に踏み切り、政府は今月に入って沖縄防衛局の幹部を交代する人事を発令している。辺野古移設計画が「大きなヤマ場を越えた」(政府関係者)ことを反映したものと見られる。

 2016年7月から沖縄防衛局長を務める中嶋浩一郎氏に代わり、後任には防衛省の田中利則大臣官房審議官が15日付で就任する。

 一方、国土交通省からの出向ポストである局次長には、今月1日付で中村晃之・前国交省九州地方整備局港湾空港部長が赴任した。

■「回復困難」報道 原状回復 余地大きい

 辺野古沿岸部への土砂投入が始まった翌日、全国紙などは「原状回復が困難になった」と報じた。しかし、現在着手している区域が全て埋まっても、全体に必要な土の量の0・6~0・7%にとどまる。国も原状回復義務を負うことは裁判で認められている。

 辺野古新基地建設は、辺野古沿岸から大浦湾の約160ヘクタールを埋め立てる計画だ。その埋め立てに使用する土砂の量は約2100万立方メートルで、県庁の庁舎に換算すると約70棟分にもなる。

 これに対し、現在着手している区域は辺野古崎南側のK4、N3、N5護岸で仕切られた、埋め立て予定区域としては最も小さい約6・3ヘクタールの浅瀬となっている。水深が深い大浦湾側に比べて使用する土砂の量は少ない。

 山口県の米軍岩国基地の滑走路沖合移設を巡り、県知事による埋め立て承認は違法だと住民が原状回復を求めた訴訟においては、2013年の広島高裁判決が、公有水面埋立法の解釈として、「国にも原状回復の義務がある」と認めている。大浦湾側の工事が大幅に遅れ、土砂の投入が浅瀬にとどまっている現状の段階であれば、原状回復の余地は大きいと見られている。

■安和桟橋 違法のまま使用開始

琉球セメントの桟橋で、ベルトコンベヤーから運搬用の船に積み込まれる土砂=2018年12月3日、名護市安和

 政府は、埋め立て土砂を搬出する港として計画していた本部港が使用できなかったため、名護市安和にある琉球セメントの桟橋を使用する対応に切り替えて土砂搬出を実行した。しかし、計画申請していた本部地区からの変更には疑義が指摘されているほか、工事完了届が提出されないまま使用を始めていた違法状態が発覚するなど、急ごしらえの民間桟橋使用は多くの問題を含んでいた。

 沖縄防衛局が県に提出した埋め立て用土砂に関する資料には、埋め立て用土砂を搬出する際は本部港を使うと記載されている。だが、防衛局が計画していた本部港塩川地区の岸壁は台風24号で六つのうち三つが破損し、新たな船の接岸を受けれなくなっていた。

 本部港の復旧工事が済むまで搬出は難しいと見られる中で、12月14日の土砂投入開始を遅らせたくない沖縄防衛局は、12月3日、急きょ琉球セメントの安和桟橋で運搬船への土砂の積み込みを開始した。

 だが、建設したばかりだった安和桟橋は工事完了届が提出されておらず、県の公共用財産管理規則に反していた。また、敷地内に積んだ土砂に関する事業届け出がなされておらず、県赤土等流出防止条例にも抵触していた。

 県は安和桟橋の使用を違法と判断し、作業の一時停止を求めて行政指導を行った。県の指摘を受け防衛局は作業を一時止めたものの、岩屋毅防衛相は同5日、作業を受託する琉球セメントが工事完了届を提出したとして「行政指導の根拠とされた指摘は解消された」として土砂搬出の作業を再開。赤土流出防止条例違反が指摘された敷地内の土砂は使わず、採石場から別の土砂を船に運ぶ方法に変更した。

■土砂への疑義 別の検査結果提出か

 昨年12月14日から始まった埋め立てに使われる土砂について、県は性状検査がなされていないことを指摘し、投入前に検査結果を出すよう行政指導を出していた。

 沖縄防衛局が検査結果を文書で県に提出したのは、辺野古沿岸部に土砂を投入した初日の作業の終了直後、14日午後5時になってからだった。

 性状検査は有害物質の混入などを防ぐため、土砂に含まれる物質などを証明する検査。

 沖縄防衛局が提出した資料には古い物で2016年3月の検査の結果が含まれており、県は防衛局が提出した土砂の性質と、実際に投入されている土砂は同一の物ではない可能性を指摘している。

 また、岩石以外の砕石や砂などの細粒分を含む割合を「概(おおむね)ね10%前後」と防衛局は説明してきたが、実際の土砂の調達では細粒分の割合を「40%以下」として業者に発注していたことも明らかになった。

 安倍晋三首相らは「環境に配慮している」と述べているが、県は「性状が未確認な土砂を投入し続けることは環境に極めて重大な悪影響を及ぼす恐れがある」と訴えている。