ブログ読者「洗脳された」 発信拠点 気配なく <沖縄フェイクを追う>⑮~ヘイトの増幅❸


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ブログ「余命三年時事日記」の主宰者が住んでいる団地の一角=9日、東京都内

 今月9日午後、東京都北部に位置する巨大な団地の最上階にある一室を訪ねた。呼び鈴を鳴らしても応答がない。部屋の前でしばらく待っていると、男性が外廊下をこちらに向かって歩いてきた。そして部屋の前で止まり、鍵でドアを開けた。「(住人は)いないよ」。男性が答えた。

 取材班が訪ねたのはブログ「余命三年時事日記」の主宰者の部屋だ。男性が鍵を開けると部屋の様子が見えた。玄関先にはいくつもの郵便物が転がっている。部屋の奥は暗く、中に他の人がいる気配はない。

 部屋を開けた男性はブログ主宰者の知人だと語った。「しばらく帰ってきていないのか」と尋ねると「頼まれて部屋を片付けにきているだけだから」と言い残し、散らばった郵便物を集め、鍵をかけると足早に立ち去っていった。

 ブログ「余命三年時事日記」は、沖縄2紙などへの「刑事告発状」や、弁護士に対する懲戒請求が大量に出される発端となった。ブログの主宰者は、この部屋からヘイト(憎悪)表現を含む記事を発信していたとみられる。

 取材班はブログ主宰者が運営している会社の登記簿などから住所を把握した。さらに、関係先から携帯電話の番号も知り得た。昨年12月中旬以降に複数回電話を掛けたところ、呼び出し音は鳴るが一度も応答することはなかった。

 取材班はブログ主宰者がなぜ捜査機関への「告発状」を何度も出したのか、弁護士への大量懲戒請求に踏み切った真意などついて、直接話を聞くために部屋を訪れていたのだ。

 部屋の表札はブログ主宰者の氏名と一致している。しかし、事前に入手していた写真で確認したが、部屋のドアを開けた男性はブログ主宰者とは別人のようだった。結局、ブログ主宰者にたどり着くことはできなかった。

 昨年夏以降、不当な懲戒請求を受けた一部の弁護士らが懲戒請求者らに損害賠償を求めて提訴する動きが出てきている。ブログを信じて懲戒請求に踏み切った請求者らは、法廷の場で裁かれることになる。

 大阪の毎日放送は昨年末に放送したドキュメンタリー番組の中で、ブログ主宰者に迫り、電話で取材している。番組でブログ主宰者はこう語った。

 「実際に書いているものというのは、初期のものなんか、単なるコピペですからね。本人の体験はほとんど入っていない」

 「コピペ」とは「コピーアンドペースト」の略語だ。ブログ主宰者はどこかの文章をコピーし、貼り付けることでブログの記事を書いていたと明らかにしたのだ。

 取材班は懲戒請求を受けた弁護士らに取材を重ねていった。そして、実際に懲戒請求を出したブログ読者らは「洗脳されていた」「社会を変えられるという高揚感があった」などと語っていることが分かった。読者らはブログで呼び掛けられた行動が世の中の役に立っていると信じ、行動していた。 (ファクトチェック取材班)