経済

「はいたいコラム」 人と食べ物の関係

 島んちゅのみなさん、はいた~い!節分の日に「恵方巻き」を食べる。この風習がいつの間にやら全国に広まったのは結構なことですが、売れ残りの大量廃棄が問題となり、先ごろ、国が業界団体に規制の通達を出すほどの大事に至りました。食品廃棄はなぜ減らないのか。ちょうど先日訪ねた東京都の島、八丈島で、食べ物とは何か考えさせられる出来事がありました。

 都心から南へ290km、伊豆諸島にある八丈島は黒潮の影響を受けることから高温多湿で、平均気温17・8度という「常春の島」です。そんな島の風土から生まれた特産に「くさや」があります。ご存じ、特徴的なにおいで知られる魚(ムロアジやトビウオ)の発酵保存食で、島に11軒あるうちの1軒、長田商店では、なんと150年も続く発酵液に漬けて代々製法が受け継がれています。

 社長の長田隆弘さん(56)は水産研究者を経て、船長だった父の会社を継いだ二代目で、知性と情熱を兼ね備えた島の語り部です。長田さんによると、あるとき観光客が加工場を覗(のぞ)きに来て、ドアを開けるやいなや、「くさい」と言って去ったそうです。においはくさやの代名詞とはいえ、気分のよいものではありません。でも、そのとき、たまたま近所の子供が遊びに来ていて、彼らが去ったあと、長田さんにこう言ったそうです。「いいにおいなのにね」。心ない一言に落ち込みかけた長田さんは、島の子供の言葉に救われ、プライドを持ち直しました。

 わたしたちにとって食べ物とは何でしょう。売って儲(もう)ける商材でしょうか。暮らしに経済は切り離せませんが、その前に食べ物とは、植物や生き物の命であり、それらを自然界から人類の恵みへと変える生産者の営み(第一次産業)があって初めて口にできるのだという大前提が忘れられてはいないでしょうか。食への感謝や土地への敬意が失われ、単に経済活動の道具になっているように思えてなりません。食品ロスの削減は最も課題ですが、人が食べる意味を本質的に問い直す時期なのではないでしょうか。

 ふるさとの気候風土から生まれた食文化、それを育む人々の存在を慮(おもんぱか)らないで、誰が食を語れるでしょう。島の特産を「いいにおいだね」と言い切る少年と生産者のおだやかな関係にこそ、まっとうな豊かさがあると思いました。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)