池本夢実、勇姿焼き付ける ボクシング・日本女子フライ級初代王者 10日、故郷で凱旋試合 世界戦前哨戦


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仲井眞重春トレーナーとミット打ちをする池本夢実(右)=31日、宜野湾市の琉球ボクシングジム(喜瀬守昭撮影)

 ボクシングの日本女子フライ級初代チャンピオン、池本夢実(琉球ジム、琉球大4年)が10日、静岡県榛原郡川根本町・本川根B&G海洋センターでOPBF東洋太平洋の元バンタム級3位のグレテル・デ・パス(フィリピン)と対戦する。世界タイトルの前哨戦として、また過疎化が進む故郷での凱旋(がいせん)試合として行う。戦績は池本が7戦6勝1敗、グレテルが10戦5勝(2KO)4敗1分け。「川根のおじいちゃん、おばあちゃんたちに頑張りを見せたいし、へき地でも関係なく、夢をかなえることができると子どもたちに伝えたい」。周囲の協力に感謝し、視線の先に世界タイトルを見据えて必勝を期す。 (石井恭子)

■パワー対策

 池本もグレテルも右ファイター。昨年12月にバンタム級からフライ級に落としたグレテルは、パワーで前に出てくるタイプだ。昨年、一度ステップをゆったりとした振り子方式からスピードを意識した速い動きに変えた池本だが、力のグレテルには再び振り子に戻して対応する考え。仲井眞重春トレーナーは「相手は典型的なパワーファイターで、しかも速い。ステップもそうだが、(得意の)右だけに頼らずに懐で左を効かせていく」と策を練る。

 通常は女子のスパー相手はおらずに重春トレーナーとの二人三脚だが、今回は真樹ジムやクロスラインの女子選手らが合間に相手を務めてくれ、女子と当たる感触をつかむことができた。念願のKO勝利には「固執しすぎると自分の試合ができなくなる。判定でもいいので、明確に勝つ」と冷静に構える。

■山深い故郷で

 琉大進学のため来県後、宜野湾市の琉球ジムでボクシングを始め、仲井眞重次会長や重春トレーナーの下で力を伸ばした。2016年にプロデビューし、18年3月に国内フライ級女子初代王座を戴冠。同年7月にはフィリピンの女子フライ級王者に判定勝利した。日本王座獲得の凱旋時に、川根本町で多くの高齢者から「試合を見てみたい」とのラブコールを受け、地元や琉球ジムなど多くの関係者の協力で実現した。「開催に至るまでは簡単ではなかった。感謝の気持ちでいっぱい」と振り返る。

 川根本町は、静岡県中央部で南アルプスの南端に位置し、SLも走る大井川鐵道沿線にある。人口は7千人を切り、65歳以上が占める高齢化率は48%。町内にサテライトオフィスを持つIT企業の支援や町の協力を得て、「夢実隊」が発足するなど応援の輪が広がってきた。

■夢見る力

 通常ではボクシングの興行が困難な地方の町での開催。ここまでこぎ着けたのは「本人が一番頑張ってるのを知ってるから、みんなが協力する」と、重春トレーナー。「山育ち、島育ちの子が、夢をかなえる環境がないのを言い訳にせず、夢実を通して『ああできるんだ』と知ってほしい」と語る。

 4月から県警察学校に入り、訓練後は警察官をしながら世界タイトルを狙っていく池本。「地元開催はすごく特別。最高のパフォーマンスを見せたい。一生懸命戦ってきます」。夢見る力でまた、新しい扉を開ける。