「はいたいコラム」 地域とともに生き残る


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 島んちゅのみなさん、はいた~い!今年1月、鳥取県の山間にある日南町から鳥取銀行の支店が撤退しました。明るみになったのは去年の夏で、人口4600人の町にある唯一の銀行の支店がなくなるというのに、町が知らされたのは前日で、これに立ち上がった町長は、町の預金5億6千万円を引き出し、一連の動きをフェイスブックに投稿したのでした。

 町長は記事の中で、「鳥取銀行さんと勝ち目のないけんかをしようと思います」と書きました。自治体の長が、「けんか」という言葉を使うのですから、並々ならぬ決意です。

 もちろん、地方銀行だって生き残らないといけません。小さな支店を集約するのは経営判断としては当然でしょう。ただ、切り捨てる前になぜ一言の話もなかったのか。町長はこう書いています。

「地元に事前に相談もなく(中略)、そうした撤退はもうやめていただきたいのです」。もし、前もって話し合う姿勢が少しでも見られれば、こうはならなかったでしょう。

 人口減少社会の中で、こうした問題はこれから、あるいは既に起きているかもしれません。しかし、思うのは、町に出入りしていた行員一人ひとりは、どんな思いで支店を立ち去ったのでしょう。それぞれ取引先や親しい関係を築いていたはずです。彼らはただ黙っていたのでしょうか。せめて自分の得意先には早く知らせたいと、上司に掛け合う人はいなかったのでしょうか。お世話になった支店のリストラを前に、何の行動も起こさなかった行員たちは、今後、自行や自分の仕事にプライドを保てるでしょうか。

 思い出した話があります。岩手県の豪雪地帯、人口5600人という日南町にも通ずる境遇の西和賀町は、5年前、北上信用金庫と包括連携協定を結びました。町の産業が疲弊すると、信金の存続にも関わるため、信金が主導となり町の活性化を始めたのです。先ほどの銀行とは真逆の方針です。雪国ならではの良質なわらびの商品開発をし、ふるさと納税返礼品を誕生させました。

 地域密着型の経営と、地域を見限る経営。果たして本当に強いのはどちらでしょう。いつか後者の存続が危ぶまれたとき、一体誰が悲しんだり、助けてくれるでしょう。社会に喜ばれる仕事とは、地域と手をつなぎ合い、一緒に生き残る方法を考えてこそではないでしょうか。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)