教育
沖縄から育む市民力

学び 考え 成長 「沖縄から育む市民力」1年座談会

 子どもたちが社会参加する力を育てることを目指す琉球新報と沖縄キリスト教学院大学の共同企画「沖縄から育む市民力」は今月で丸1年を迎えた。参加した教員らは2日、西原町の同大で座談会を開いて1年を振り返り、成果や課題を話し合った。

校種を超えて


「沖縄から育む市民力」のテーマで活発な意見交換をする教諭ら=2日、西原町の沖縄キリスト教学院大学

伊波 校種を超えた連携で、この校種ではここまでできる、次の学校に送る前にここまでやっておいた方がいい、など見通せるようになった。

ウェッブ 学校の先生からは「まだ幼児だから」と言われるが「まだ」じゃない。幼児も意見を持っており、この時期に基盤ができると小中高に上がってもぶれない。そのことを知ってもらえたと思う。

内山 教師自身に豊かな体験が必要だと感じる。人の出会いも体験。幼小中高大、博物館まで仲間との豊かな出会いがあり、地域の素材を価値あるものとして料理するのが教師の仕事だと学んだ。

屋良 「小学生にとっての市民力とは」と考え、小学生なりに身の回りの事象に関心を持ち、意見を言う主体になろうと働き掛けた。その結果、身近な行事や学級に関わる子どもが増えた。これを中高大、大人にまでつなげられる、つなげたいと思っている。

島袋 疑問を抱く間もなく多くの情報にさらされ「不思議」と思う力がない子どもがいる。その力は自分で調べ考えることでしか育たない。博物館は人と自然の歩みの宝箱。先生方の協力があれば多様な素材を引っ張り出せる。一緒にやりたい思いを強くした。

玉城 1人の先生が取り組めば教室の40人に広げられる。幼稚園から大学までつながるのは大きな力だ。ゆるやかなつながりが社会を変える力になる。


答えのない問いに


伊波 この企画で大学生に出前講座に来てもらった。自分で考える機会と時間をもらい、思いを伝えることができて、生徒たちはとても楽しかったと喜んだ。生徒は身近なことに関心があり、意見を言いたがっていることに気付いた。

玉城 出前講座に出向いた学生は「自分の正しさを聞け」と求めるのではなく、自分が正しいと思うものを信じつつ、多様な考え方があることを認め、情報を提供した上で相手の思考を見守ることを学んだと言っていた。伝える側になる意義も大きい。

伊波 自由な発想や意見を認め議論するより「○か×か」でしか評価しない教育をしてきた反省がある。

内山 評価を加えず自分の意見を言っていいという授業では子どもも自由に発想するだろう。ただ正解・不正解が必要な授業もあり両輪だ。

我如古 この授業で疑問が湧き、それを考えるために勉強したいと言いだす生徒がいた。生徒が他教科にもアンテナを張り、つなげて考えるように育っているのが見えた。また鋭い疑問を出す子がいると授業が盛り上がる。

玉城 教員が疑問を言える環境をつくっているということ。疑問を言ってはいけないと思っている大学生もいる。


新聞社との連携


譜久山 教室ではあまり発言しない生徒のコメントが記事に載り、自信を持つようになって学校での態度も変わった。

我如古 記者が教室に入り、生徒の質問にも答えてくれ、今までは遠く感じていた記者や新聞に親近感を持った。知事選では「意見をどう候補者に届けていいか分からない」という時に、新聞社も活用できると気付いた生徒もいた。

玉城 授業だけでなく毎月の研究会に記者も参加することで記者と教員が伴走し、互いの強みや良さを生かせた。

屋良 選挙に関する授業は言葉も厳選して慎重に行うので、普段交流がない記者が自分の意図と違う記事にしてしまうと非常に困る。今回のように記者が寄り添い、一緒になって作る紙面は、今までとは違うものだった。


市民力とは


我如古 授業後、ボランティア部に入る生徒が増え、楽しそうに活動の幅を広げていた。世界の問題を学びながら、身近な足元でできることを考え、行動していく力が市民力ではないかと生徒に学ばされた。

ウェッブ 子どもたちは平和を求めている。沖縄の歴史を知ることをカリキュラムに入れ、子どもたちともっと沖縄を学びたい。

屋良 自分の頭で考え、自分の言葉で言えるようになってほしい。「主人公はあなたたちだよ」と伝えることが原点だと思う。

内山 地域を支えるスタンスで地域に根差した授業をしてきたが、教員は異動があり、子どもたちもいずれ動くかもしれない。でもここで学んだことは他でも役立つ。どこにいても、地域の価値あるものを大切にしてほしい。

玉城 自分が社会に影響を与えることができると考える若者が日本は少ない。だが授業を重ねる中で学生たちは自然と「自分たちは社会を変えることができる」と語るようになった。1年間の大きな成長だ。



座談会参加者

ウェッブ・サエコ氏(沖縄アミークスインターナショナル幼稚園教頭)

屋良真弓氏(南風原町立翔南小教諭)

内山直美氏(糸満市立糸満中教諭)

伊波郁氏(北中城高教諭)

我如古香奈子氏(県立総合教育センター主事、実践当時はコザ高教諭)

譜久山ゆかり氏(知念高教諭)

玉城直美氏(沖縄キリスト教学院大准教授)

島袋美由紀氏(琉球大博物館「風樹館」)



~ 担当記者から ~

 校種も異なる教員らが「市民力」という共通の目標を持って実践した授業を毎月1回、紙面で紹介した。その裏では毎月研究会を開き、教員たちは意見交換をして新たなアイデアを得て、方向性を確認した。

 記者も毎回同席した。普段の取材で見る、いわば「水面上」だけでなく、授業の背景や過程、教員の悩みや工夫といった「水面下」を間近で見せてもらえたのは大きかった。授業づくりにとどまらない、子どもの学びや教育への理解は深まり、記事にも反映できたと感じる。

 取材を続ける中で、自分の思いを言葉にして他者に伝える力こそ「市民力」の核だと確信したが、そのシンプルなことが実際には難しい。だがこの教員たちの授業では、子どもたちは活発に言葉を発し、他者の言葉を聞いて、共に社会を創る市民として歩み始める姿が見えた。

 記者や新聞社が加わることで企画がより成功したなら、記者、新聞社もまた一市民として次世代を育て地域を創る役割の一端を担えたということだ。本企画のキーワードでもあった「自分にできること」がまた一つ増えた。(黒田華)