「はいたいコラム」 思いを歌って訴える


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 島んちゅのみなさん、はいた~い! 新年度のスタートとともに、新しい元号が「令和」に決まりました。出典が初めて日本の古典「万葉集」だったことから、にわかに万葉集ブームが起きています。今から1200年も前に、貴族だけでなく防人(さきもり)から庶民、農民まで幅広い層の歌が4500首も収められているというのですから、当時それだけ大勢の人が和歌に親しんでいたんですね。

 ちなみに和歌とは、漢詩に対して「大和歌」と呼ばれていたのが、略して「和歌」になり、さらに長歌と短歌のうち長歌が廃れて短歌だけが残ったので、和歌も短歌も時代によって呼称が違うだけだということです。沖縄にも「琉歌」という独自の形式の歌がありますね。

 そもそも「歌う」の語源は、「訴ふ(うったう)」だといわれます。思いを訴える手紙、愛しい人への恋文、公私さまざまな訴えの文言が次第に磨かれ、洗練されて、五七五七七の歌になったのです。リズムに乗ったり、韻を踏んだり、今でいうラップにも似ています。あるいは、万葉の時代にSNSがあったら、貴族も防人も歌をつぶやいていたかもしれませんね。

 私はNHKEテレで「ハートネットTV介護百人一首」という番組の司会をしています。老いや介護を前向きにとらえ、人に言えない心の憂さを短歌で吐き出そうというもので、毎年応募作の中から百人の歌が選ばれます。その中から印象的な歌を紹介します。

 「面白きこともあるらむ百歳の壁を目指して検診にゆく」千葉県の山本庸雄さんはなんと92歳! 人生百年時代の歌です。「満開の庭の桜を見せたくて妻のベッドを窓際に寄す」兵庫県・濱守さん(77)。夫の優しさが表れていますね。「溜まりたる憂さの捨て場所ここにあり歩いて百歩椅子ある八百屋」広島県の岡田憲子さん(86)。介護の合間、近所におしゃべり相手がいることがどれだけ救いになるでしょう。「ついに手を上げてしまった我を責めわたしを捨てに行く場所さがす」岐阜県・廣瀬由美子さん(68)。

 壮絶な歌から微笑ましい光景まで、家族の介護は日常生活ですから、悲しいときもあれば、くすっと笑う喜びの瞬間もありますが、思いを歌で訴えることは、心の中のもやもやの発散になります。新生活のコミュニケーションや言葉遣いを見直すきっかけになるかもしれませんよ。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)