激動の平成教育界 「ゆとり」→「脱ゆとり」へ 学力格差是正の動きも


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 平成は教育界にとって激動の時代だった。教育行政は「ゆとり教育」から「脱ゆとり」へと軸が揺れ動いた。近年は主体的な学びが重視され、大学入試改革のまっただ中にある。そのような中でも県内の児童・生徒は飛躍し、全国で輝きを放った。平成の始まりと終わりのデータ比較や、キーマンへのインタビューなどを通し、教育界の動きを振り返る。

 平成の教育行政は、昭和の「受験戦争」や「詰め込み教育」の反省から始まった。学習内容を削減した「生きる力の育成」を掲げた「ゆとり教育」が本格的に始まったものの、学力低下への懸念から、すぐさま転換の方針が打ち出され、平成のうちに終わった。学力を巡っては格差問題も浮上し、平成後期は学力保障に関する取り組みにも注目が集まった。

 学校の週5日が始まったのは平成4(1992)年だった。まずは第2土曜日が休日となり、平成7(95)年には第4土曜日にも拡大。平成14(2002)年からは完全週5日制度が始まった。

 学校週5日制と同時に、学習内容の3割削減や「総合的な学習の時間」の新設を盛り込んだ「ゆとり教育」がスタートした。しかし、「学力低下を招く」との批判は強く、平成17(05)年に中山成彬文部科学相(当時)が中央教育審議会(中教審)に「ゆとり教育」の見直しを要請。平成20(08)年には授業量増に転じる学習指導要領が示され、「ゆとり教育」からの転換が図られた。

 一方、全国学力テストの結果分析などから、学力向上だけでなく、格差の問題も指摘されるようになった。琉球新報が平成27(15)年に県高等学校障害児学校教職員組合(高教組)と合同で実施したアンケートでは、教員の6割が「経済的理由で進学を断念する生徒が増えた」と回答した。親の経済力によって子の学ぶ環境が左右される現状も浮き彫りになった。

 県は平成28(16)年に子どもの貧困率を都道府県単位では全国で初めて発表した。29・9%という数字は県内外に衝撃を与え、子どもの貧困改善に向けた各種施策が強化された。


子ども減り、学級は増え 少人数学級進む 小中高で教員数増加
 

 平成元(1989)年度と平成30(2018)年度の県内小中学校、高校の姿を比べてみたところ、児童・生徒数が減少しており、中学校では学校数が9校減っていることが分かった。小学校の学級数と高校の学校数は増加が見られ、教員数は小中高ともに増加した。

 小学校の児童数は30年間で12万4086人から10万1279人に減少したが、学級数は平成元年の3963クラスから4417クラスに増えた。県教育庁によると、児童数が減ったにもかかわらず学級数が増えた背景には、国や県の進める少人数学級の編成が挙げられるという。これに伴い教員数も5401人から6428人に増加した。

 県では少人数学級における児童数の基準が国の定める数より少なく、小1・小2で30人、小4から小6で35人を基準に設定している。現場からは「子どもと向き合う時間が増えた」など、きめ細やかな指導ができるようになったという声が上がっているという。

 中学校では生徒数が6万7057人から4万8174人に減少。学校数も166校から157校になった。高校は生徒数が6万4155人から5万8481人に減少。学校数は平成元年は全体で65校だったが、30年度は通信制高校の数などの増加に伴い70校と増えた。また、この間統廃合があったが球陽高などが新設された。30年度の内訳は、県立の全日・定時制高校と私立高校を合わせた学校数は64校。通信制高校は県立・私立合わせて6校だった。


小中で身長、体重増
 

 「児童生徒の体力・運動能力・泳力調査報告書」(県教育委員会)の平成28年度版と平成元年度版で県内児童・生徒の平均身長・体重を比較すると、小6、中3で男女ともに増加した。高3は男女とも体重は微増しているが、身長は男子が横ばい、女子が微減となっている。

 運動能力を比較すると、肩が強く、持久力が弱いという県内の傾向は変わっていないが、弱いとされている持久力も全国平均との差は縮まっている。

 平成元年度の高3男子の持久走は、全国平均を50とする「Tスコア」が40・53だった。種目は違うものの、同じ持久力を測るシャトルランは平成28年度に47・11となり、全国平均と近い数字になった。女子も持久力が伸びた。

 平成元年度のハンドボール投げ(小学校はソフトボール投げ)は全国平均を下回っていたが、平成28年度は小2女子を除き「Tスコア」が50を超え、投力の高さが際立っている。

 泳力は平成で飛躍的に伸びた。小6で25メートル以上泳げる児童の割合は、平成元年が男女ともに5割だったが、平成28年の調査では7割以上になった。プール設置校が増えたことや、教員の指導力向上に努めた結果とみられる。中高も泳力が伸び、平成28年度の高校男子は9割、高校女子も8割近くが25メートル以上泳げる。


沖縄戦の「集団自決」 検定で強制性削除 記述求め県民大会
 

 沖縄戦の「集団自決」(強制集団死)について、文部科学省の検定意見があり、歴史教科書から日本軍の強要があったとの記述が削除されたのも平成の出来事だった。検定意見の撤回と記述回復を求める県民大会が開催されるなど、県民は一斉に反発した。現在も軍の関与を示す記述にとどまっており、強制性に関する記述は回復していない。

 文部科学省が「実態を誤解する恐れがある」との検定意見を付けたのは、平成19(2007)年3月のことだった。背景には、慶良間諸島に駐留していた日本軍の元守備隊長や遺族が「命令はなく、住民自ら自決した」と主張して起こした「大江・岩波裁判」がある。検定意見は「軍命令はなかった」とする原告の主張も参考資料の一つにしていた。

 同年9月29日には超党派の実行委員会で県民大会が開催された。大会には11万6千人(主催者発表)が集まり、県民一丸となって記述回復を求めた。

 大江・岩波裁判で、最高裁は原告の訴えを退け、日本軍の強制については「断定できないが、推認できる」との判決が確定した。しかし、その後も検定意見は撤回されていない。

 「9・29県民大会決議を実現させる会」は、記述回復を求めて活動を続けており、主要メンバーによる協議会は6月に100回目を迎える予定だ。