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市場唯一のヤギ肉専門店!「貧乏は嫌」負けん気で53年〈まちぐゎーあちねー物語 変わる公設市場〉6 離島から(下)上原政子さん


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店先に立つ上原政子さん(右)。市場で育った長女高木喜美枝さん(左)が店を手伝う=那覇市松尾の第一牧志公設市場

 16歳で故郷の伊良部島を離れた上原政子さん(75)は那覇市松尾の牧志公設市場で「上原山羊肉店」を営んで53年だ。「絶対貧乏にならない。昼も夜も働いて金持ちになるんだ」。その負けん気が上原さんを突き動かしてきた。

 上原さんが初めに住み込みで働いたのは、牧志の反物問屋。店の人の家事をこなし「ホームシックになる暇はない」くらい、忙しく働いた。だが、店主から出された料理を見た時は思わず涙した。ご飯にみそ汁、おかずもいくつか。五つほどのおわんがお盆に配膳されていた。「島では芋ばかりだったから。こんなにおいしいものを初めて食べた」。思い出して涙目になった。「一生懸命働いておいしいご飯を食べる」と、思いを新たにしたという。

 22歳で肉屋に嫁ぎ、トタン屋根の牧志公設市場で働いた。市場が火事で焼失した後、第二市場へ。1990年ごろ、現在の第一市場に移った。おぶりながら6人の子どもを育て働いた。肉を置いた台の下のガラスケースは幼子のベッド代わり。「客にこれも売り物ね?と冗談で言われたこともあったよ」と豪快に語る。

 安価で昔はどの家庭でも食卓に上がったヤギ肉。市場内もあばら骨が浮き出た大きなヤギ肉があちこちにぶら下がっていた。しかし、時代とともにヤギ肉を食べる人は減り、ヤギ肉の卸しも減少。20年前は第一市場に5~6店あったというヤギ肉専門店だが、今や上原さんの店のみに。それでもヤギ料理店など50年来のお得意さんが多く通う。

 5年前にはヤギブームが到来。供給が追い付かないヤギ肉を新たに買い付けるため、上原さんは3年前から伊平屋島まで通っている。男性ばかりのヤギ農家は女性の上原さんが買い付けに来たことに目を丸くした。酒の場でジュースを手渡された上原さんだが「なんで兄さんたちだけビール飲むの」と一緒に酒を酌み交わした。仕入れも販売も人付き合いも「やらない作業はない」とたくましい。

 建て替えに伴い現市場での営業が6月16日までとなり、近くで土産店を営む翁長優子さんらが引退を決めた。上原さんも辞めようか迷ったが息子が止めた。「90歳まで働く」と店は続ける予定だ。でも「店を辞めて地域のお年寄りにご飯を作りたい」との気持ちもある。いずれにしても「働くことが楽しい。人生楽しんでるよ」。あっけらかんと話した。
 (田吹遥子)

(琉球新報 2019年3月19日掲載)