prime

宗教対立の危険性 和解に向けた努力必要<佐藤優のウチナー評論>


この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 21日、スリランカの最大都市コロンボなど3都市で、キリスト教会や高級ホテルなど8施設が狙われる爆発が起きた。事件による死者は、4月24日現在で、日本人女性1人を含む359人にのぼっている。今後、新たな犠牲者が判明する可能性もある。本件は、イスラム原理主義過激派によるテロの可能性が高い。

 〈過激派組織「イスラム国」(IS)は23日、系列のニュースサイトを通じ「スリランカでの攻撃を実行したのはISの戦闘員だ」とする犯行声明を発表した。「(米主導の)有志連合諸国の市民とキリスト教徒を狙った」と主張。テロで犠牲となった日本人を含む外国人を攻撃対象としたことを意味しているとみられる。/また、実行犯とする7人の通称と具体的な役割に言及し、「十字軍連合の市民」を標的にしたとする声明も発表した〉(23日本紙電子版)。

 21日は、キリスト教の復活祭だった。今回の事件を起こした組織がこの日を選んだのは、キリスト教徒を挑発して、宗教対立をあおるためだ。欧米のマスメディアでは、キリスト教徒を狙ったテロであるという見方が強めている。4月22日米紙「ウォール・ストリート・ジャーナル」は、社説で〈世界の指導者らはこれを「人類」に対する攻撃として糾弾しているが、間違えないでほしい。これはキリスト教徒に対する攻撃だった。犯人は特別何もない普通の日曜日を選んだわけではない。爆発は、キリスト教のカレンダーで最も神聖な日に、信仰の場で礼拝の最中に起きたのだ。/(中略)スリランカには、内戦にからんでテロ事件が頻発していた悲惨な歴史があるが、近年は少なくなっていた。キリスト教徒(7・4%)とイスラム教徒(10%)は、仏教徒が多数派のスリランカにおいて少数派だ〉と指摘した。

 筆者は、プロテスタントのキリスト教徒で神学者だ。だから、この事件でキリスト教徒が受けた衝撃が皮膚感覚でわかる。同時に、外務省主任分析官として、国際テロの分析に従事したこともあるので、テロリストの狙いもよくわかる。キリスト教徒が主流派を占める西側諸国を挑発、ISに対する掃討作戦を始めさせ、それによって危機を醸成し、イスラム教徒をIS側に引き寄せようとしているのだ。スリランカのテロの対象が人類ではなくキリスト教徒であるという言説は、キリスト教徒とイスラム教徒を文節化する機能を果たす。結果として、ISを利することになる。

 現下の状況で重要なのは、イスラム教徒の大多数を占める穏健派を通じて、過激な傾向を持つイスラム教徒に働き掛けることだ。それによって、キリスト教徒を憎んではいるが、ISのようなテロ活動にはついていけないと考えている過激な傾向を持つイスラム教徒の青年層を、ISから分断することだ。

 イエス・キリストは、「平和を実現する人々は、幸いである、/その人たちは神の子と呼ばれる」と説いた。スリランカでシンハラ人の仏教徒とタミール人のイスラム教徒が内戦を起こしたときに、キリスト教徒は和解に向けて努力した。この歴史の記憶を生かして、宗教的憎悪を脱構築する方向で全てのキリスト教徒が行動すべきと思う。

(作家・元外務省主任分析官)

(琉球新報 2019年4月27日掲載)