[日曜の風]自民党のマニュアル 失言は本音だ


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 自民党が党内で「失言防止マニュアル」を配布した。正式には「遊説活動ハンドブック」の号外版という位置づけのものらしい。閣僚や議員によるこのところの暴言の数々に対応した動きだ。タイトルが「『失言』や『語解』を防ぐには」となっている。

 あなた方の発言は、その一部が「切り取られて」報道されることがあるから怖いですよ。下手にキャッチーな言葉を使うとそれが記事の見出しに使われちゃいますよ。ウケを狙うと墓穴を掘りますよ。歴史認識や思想信条に関わる熱弁は命取りにつながるかも。事故や災害に言及する時は、関係各方面の顰蹙(ひんしゅく)を買わないよう、くれぐれも注意しましょうね。何でも、こんな調子の珠玉の警告やアドバイスが満載されているらしい。

 さすがに、自民党の中にも、こんなものを配らなければならない現状を情けなく思う向きがいるらしい。「自民党は幼稚園も併設していますと看板を掛け直さなければならない」と嘆いた党幹部がいるのだという。

 さしあたり、笑い話として堪能するのは楽しい。ただ、それはそれとして、考えてみればこの文書はなかなかの真相を暴いている。そもそも、この文書が「失言防止マニュアル」という扱いになっているところが示唆だ。なぜなら、この文書が言う「失言」は、実は失言ではない。真言である。口が滑って、本当に思っていることを言ってしまった。そこに誤解の余地はない。日頃は注意して建前をしゃべっている。だが、晴れ舞台に上がって興奮状態に陥ったりすると、ついつい本音がほとばしり出る。彼らが防止しようと必死になっているのは、実はこのことだ。

 暴言が相次いで物議を醸すと、必ず「緩み」が失言につながるとか、緊張感をもって発言するようにしないといけない、などという話が出てくる。人間は気が緩むとどうなるか。心にもないことを言うのか。そうではないだろう。緩んだ時に出るのは本音だ。緊張して注意していない時に滑り出る本当の思い。それがあまりにも醜い。そこに、自民党の「失言」問題の本質がある。そこが、自民党には解(わか)らない。哀れ。

(浜矩子、同志社大大学院教授)

(2019年5月19日 琉球新報掲載)