「あれはフェイクニュースだ」互いのレッテル貼りにならないために 「ファクトチェック」座談会【4】


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 2018年9月の県知事選で琉球新報は地方紙としては初めてファクトチェック報道を開始し、ネット上を中心に拡散される偽情報や根拠不明の情報など「フェイクニュース」について、事実を検証した記事を掲載した。17日に開かれた座談会には、専門家やネットメディア、全国紙から有識者が集まり、本紙報道への評価や、ファクトチェックの今後の方向性について活発な議論を交わした。出席者らはそれぞれの立場から現実社会に影響を及ぼしているフェイクニュースに対応するメディアの姿勢、選挙報道におけるファクトチェックの意義について考えを語った。(文中敬称略)

(右から)瀬川至朗氏 古田大輔氏 倉重篤郎氏 滝本匠

参加者

瀬川至朗氏(早稲田大教授、NPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ(FIJ)」理事長)
古田大輔氏(ネットメディア「BuzzFeeD Japan(バズフィード・ジャパン)」創刊編集長)
倉重篤郎氏(元毎日新聞社政治部長)
滝本匠(琉球新報東京支社報道部長)

進行 島洋子(琉球新報報道本部長)

検証しながら議論、ガイドラインが必要

 島 ファクトチェック報道は手探りで、紙面に出すことに値するのかとデスク会議で話し合われた。

 滝本 玉城デニー候補が「過去に大麻を吸っていた」という情報について「大麻を吸ったか否か」の客観的事実を見つけることの難しさを痛感した。

 島 デスク会議で「逮捕歴がない」ということもどう証明するのかという意見も上がった。

 滝本 情報はかなり広まっていた。記事としては「真偽不明」「うそとも正しいとも分からない」「根拠もない」として、国会議員という拡散力のある人が広めていることをまとめた。ファクトチェックという体裁ではなくても、なんとか記事にしたいとの思いで取材を進めた。知事選時は、真か偽かという判定だけで記事を検討したが、FIJのレーティング(判定基準)も参考に、「ミスリード」「根拠不明」の情報を含めて分析する基準を新年号でまとめた。

 瀬川 実践例を検証している。FIJの基準は検証しながら「この判定どうなの」ということも議論し、積み重ねてつくった。ある意味、ファクトチェックも進化する要素はあると思う。例えば大麻疑惑の時にも「根拠なし」とするのか「根拠不明」となるのかで、議論もある。FIJの基準は提案したものであり、それを基に考えて基準を一部変えていくのもいい。

 古田 「あれはフェイクニュースだ」と言い合うだけだと、読者からは、互いにレッテル貼りをしているように見えてしまう。例えばトランプ米大統領はニューヨーク・タイムズなどをフェイクニュースと言っているが、ニューヨーク・タイムズなどは大統領の発言は間違いだと言っている。「どこがどう間違っているのか」を書かないと、互いの言い合いにしか見えない。

 読者に信頼してもらうためには、根拠に基づいた一定の基準で行動していることを読者に信じてもらわないといけない。そのためにもガイドラインが必要だと思う。報道の一定のルールは100年かけてつくりあげられてきた。例えば「きちんと引用元を掲載しましょう」ということなど。同じようにファクトチェックが世界で広がる中で一定の基準が出来上がってきている途中だろうと思う。

【琉球新報の判定基準】グレーの情報を4分類

 「フェイクニュース」という言葉は一般化し、広く知られるようになってきたが、フェイクニュースの中には「事実自体がそもそも存在していない情報」「一部は合っているけれども、大部分が誤っている情報」などさまざまな言説が存在している。

 2018年9月の県知事選挙は、インターネットを中心にそれらの「情報」が大量に流された。それを国会議員や首長経験者など、社会的に影響力のある者がツイッターやフェイスブックなどの会員制交流サイト(SNS)で投稿したこともあり、瞬く間に広がっていった。

 一方、知事選期間中に流れたさまざまな「情報」を一つ一つ検証していくと、「正しい」「間違い」だけで判断できない情報もあふれていることが明らかとなった。それらの情報は通常のニュースよりも速く、広く拡散される傾向もあった。

 琉球新報のファクトチェック取材班は、白か黒かで分けられない「グレーの情報」を拾い上げて検証するためには、その情報がどういった質のものなのかを分類し、基準を明確化する必要があるとの立場から、19年1月1日付新年号で四つの基準を打ち出した。

 情報を分類する基準として(1)取り上げられた事柄がそもそも存在していない情報(2)事実に誤りがある情報(3)取り上げられた事柄が事実と証明する根拠のない情報(4)誤りがあるとまでは言えないが、正確ではない情報や誤解を生じかねない情報―の四つに分けている。

 それらを「偽情報」「誤情報」「根拠のない情報」「不正確・ミスリーディングな情報」として分類し、今後のファクトチェック取材にも生かしていく考えだ。