宮古島素材のドーナツにこだわりのコーヒー 30代店主が地元で店を続ける理由


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10種類のドーナツが並ぶそばでコーヒーを入れる高江洲輝之さん=5月24日、宮古島市平良久貝

 【宮古島】こぢんまりとした店内に足を踏み入れると、ひきたてのコーヒー豆のかぐわしさと、甘く柔らかなドーナツの香りに包まれる。宮古島市平良久貝にあるテイクアウト専門の「ニンギン商店」。3年前にオープンした店には、開店前から行列ができることもあり、午前中でドーナツが売り切れることも少なくない。店主の高江洲輝之さん(38)は宮古島出身だ。こだわりのコーヒーとドーナツを提供しながら、「宮古の人が島でできる新しい働き方や生き方を示したい」と静かに語る。

 「ニンギン」は宮古言葉で「人間」の意味。「何となくつけた名前だけれど、最近になって気に入ってきた」と輝之さん。自身の働き方や生き方を反映した人間像、さらにはこれから目指す人間像といった複数の意味が込められている。高江洲さんは大学を卒業後、本島の求人誌などの出版社で約10年の勤務を経て、30歳の時に宮古島に戻った。両親が営む宿を手伝ったり、その頃出会った妻の由樹子さん(37)に勧められて社会福祉士の資格を取得したりしたが、「ずっと楽しく続けられる仕事をしたい」と思い立ってコーヒー店を始めた。

プレーンドーナツ。値札には「これが今の僕の全てです」とコメントが添えられている

 コーヒーの“お供”にドーナツを選んだのは「息子が好きだったから」というシンプルな理由。「子どもにも毎日食べさせたいものがいい」と試行錯誤を重ね、焼いて仕上げる今のスタイルにたどり着いた。宮古島産の豆腐とおからを使ったドーナツはしっとりもちもちで優しい味だ。プレーンやきな粉など、常時10種類程度の味が店頭に並ぶ。コーヒー豆の焙煎(ばいせん)は手回しで、この手法に合わせた豆を選んで香り高いコーヒーを日々注ぐ。

 さまざまな面で激変のただ中にある宮古の状況を踏まえて「島に戻り、島のために何ができるかを考えると、宮古での新しい働き方、ひいては生き方を示すことが自分たちが宮古で働く意義の一つだと考えている」と思いをかみしめるように話す。「店の基盤がしっかりと築けたら、近隣のアジア各国に直接出向いてコーヒー豆の仕入れもしてみたい」と前を見つめる。「やりたいことはまだまだあるよ」と穏やかだが強い意思を感じさせる声で語ると、優しく笑った。