7月4日公示、21日投開票の参院選沖縄選挙区の主要立候補予定者を招いた1日の座談会で、県政与党が支援する新人で琉球大名誉教授の高良鉄美氏(65)と、新人でシンバホールディングス前会長の安里繁信氏(49)=自民公認、公明、維新推薦=が米軍普天間飛行場の名護市辺野古移設問題や沖縄振興の方向性、子どもの貧困対策などで論戦を繰り広げた。クロス討論では、県民投票で示された民意の在り方や日米安保体制を巡る認識への疑問などをぶつけ合った。 (文中敬称略)
(’19参院選取材班)
【辺野古移設】埋め立て明確に反対(高良氏) 質問自体が県民分断(安里氏)
―米軍普天間飛行場の辺野古移設に賛成か反対か。
安里 県民投票で民意が示された現実を受け止める。厳しい現状を政府に伝える。それがいま担わないといけない役割だ。もう一つの事実として存在するのが法治国家だ。法律的に違法性はなかったという最高裁の判例もある。二つの事実をどう現実で受け止めて答えの出せない問題についてどう県益を近づけていくかが政治家の役割だ。
辺野古に土砂が搬入され、取り返しのつかない所まで工事は進んでいる。土砂を掘り起こして元に戻すのは現実的に不可能だ。ただ工事を容認とは言えない。賛成か反対かの質問をすること自体が県民を分断している。県民の出した答えとどう向き合っていくかが現実主義の人間として大切だ。
高良 明確に反対だ。辺野古の美しい海を埋め立てて200年も耐え得る新たな基地は絶対に認められない。基地の苦しみを子や孫の世代まで担わせてはいけない。戦後70年がたち、それでもまだ沖縄に負担を残すのか。沖縄に米軍専用施設が集中していることは許されない。
SACO合意から20年以上がたつ中、辺野古が唯一というのは問題だ。東アジアの緊張緩和の動きにも逆行する。軟弱地盤もあり、設計変更には知事の承認が必要だ。辺野古は沖縄だけではなく全国的な争点となっている。少なくとも工事を止めることが大事だ。世界の技術は人工物を自然物に戻す技術もある。民意を守らないことは法治国家として問題だ。
【普天間問題】運用停止を求める(安里氏) 即時閉鎖と返還を(高良氏)
―米軍普天間飛行場の危険性除去をどう進めるか。
高良 普天間の代替という言葉で新基地を造ろうとしている。軟弱地盤も見つかり、少なくとも完成まで13年以上かかる。その間、普天間の危険性を放置するのか。米軍機からの落下物があり、避難施設が学校にある。こういった学校が全国にあるのか。政府は普天間飛行場の運用停止を約束した。現在の普天間の機能は昔の3分の1以下だ。即時の閉鎖、返還を求めていく。
安里 普天間問題については仲井真県政が大きな決断をした。その決断の中の5項目に普天間の5年以内の運用停止が明確に書かれている。それをもって埋め立て承認を許可したという認識を県民は持っている。期限は過ぎており、一日も早い運用停止を求めていくのが筋だ。普天間の危険性除去、運用停止は許可承認の前提となっている。政府はしっかりとその約束を果たしてほしい。
【経済振興】具体的成長戦略描く(安里氏) 基地とリンク認めず(高良氏)
―これまでの沖縄振興の是非とこれからの振興計画の在り方をどう考えるか。
安里 振興策は第1次から第3次まで開発を中心に、インフラ整備を軸とした振興計画が続いた。今の21世紀ビジョンでは初めて裁量権を県が手にし、予算配分を地元主導でやるという新たな試みがスタートして7年目になる。これからの沖縄振興を検証しつつ、より具体的な成長戦略を描いていく必要がある。
加えてこれまでの振興策の延長戦ではない、新たな成長戦略を描いていくべきだ。離島振興の在り方も国策で整える整備と沖縄振興で整える整備を具体的に分けていかなくてはならない。離島では航空運賃の軽減も含めてさまざまな課題があり、若者が移り住んで夢を描きたいという状況にはない。島々に夢を持っていただけるような計画を作り上げたい。
高良 復帰50年目を迎える節目に当たり、次期振興計画は必要だと思う。これまで本土との格差是正のために、振興計画の多くがインフラ事業などに費やされて沖縄の振興に寄与してきた。ただ予算の大半が県外企業に還流している現状を改めないといけない。
次期計画では、地元企業に恩恵が行き渡ることをしっかり実現することが必要だ。沖縄の将来は、発展著しいアジアの玄関口という位置付けで物流や情報通信産業の集積の拠点として、沖縄の地理的な優位性をしっかり生かしていくことが求められる。県のアジア経済戦略構想と沖縄21世紀ビジョンの着実な実施が日本経済をけん引していくと思う。基地とリンクした振興計画の在り方は絶対に認められない。
【消費税増税】経済に大きな打撃(高良氏) 税制の見直し必要(安里氏)
―10月に予定される消費税引き上げの賛否は。
安里 消費増税は法案化されたことを前提に今後の推移を見届けないといけない。消費税が上がる度に消費が冷え込んだ実情もあるが、今回は軽減税率制度というセーフティーネットもある。この国は今、キャッシュフローが回っていない。消費税に限らず、税収を上げていくために税制の抜本的な見直しを含め考えないといけない。
高良 10%に引き上げられると県経済に大きなブレーキがかかることが懸念される。1世帯当たり年間4万円の負担が増えるとの試算もある。購買力の低下で県経済は大きな打撃を受ける。県民の暮らしと経済を守る上で消費増税には断固反対だ。消費税が8%に引き上げられた時も大きな消費不況に陥った。今も実質賃金は下がっている。
【子の貧困対策】実態踏まえ手当て(安里氏) 国庫補助増求める(高良氏)
―子どもの貧困撲滅にどう取り組むか。
高良 翁長県政で、全国で初めて子どもの貧困実態を調査した。県内の子どもの貧困率が全国平均の2倍、子どもの3人に1人が貧困状態に置かれていることが分かった。就学支援について市町村は国庫補助の引き上げを求めているので、それをやっていきたい。
子どもの貧困の支援員を増やして確保することや、子ども食堂への支援についても地域の実情に合わせて進めていきたい。就労支援や所得の改善、時給を上げて親の所得をアップし、正規雇用に結び付ける。待機児童は米国統治下の問題に起因している。国の責任で認可保育園を思い切って増やす。国の給付型奨学金を拡充していく。
安里 10月から3歳以上5歳未満の保育料が無償になるという政策が始まる。子育て、子どもの貧困対策を社会全体で捉えていかなければならないということで、政府は1丁目1番地に掲げて現在強固な政策を実行している。
子どもを社会全体で育てて守り抜くことを、より具体的に責任政党として手当てを講じていかなくてはならない。沖縄県では戦後27年間、戦災孤児の方々に対する手当てが全くされず放置されたままだった。貧困の連鎖は断ち切らなくてはならない。全国一律の流れではなく、沖縄ではさらに深掘りして実態調査に基づいたさまざまな手当てを講じていかくてはならない。
【最も訴えたいこと】建白書実現に全力(高良氏) 県益の確保が大事(安里氏)
―選挙戦で最も訴えたいことは何か。
高良 最大の争点は辺野古新基地建設の是非だ。知事選や県民投票で新基地建設反対の圧倒的民意が示されたにもかかわらず国は土砂投入を強行している。このような国のやり方は絶対に受け入れられない。建白書の実現のために全力を尽くす。
憲法も非常に重要な争点だ。安倍首相は憲法改悪に執念を燃やしているが、県民は筆舌に尽くしがたい悲惨な沖縄戦を体験した。沖縄の平和の心を国会に届け憲法改悪を阻止する。
10月の消費増税にも反対する。国政野党と協力して消費増税をストップさせる。
安里 争点はポスト沖縄振興計画だ。
辺野古の是非が争点という時代は平成で終わった。2月の県民投票で民意は明らかになった。反対という民意を受けて、どう具体的に交渉のテーブルにつくことができるかが国政を担う者の役割だ。
一方、辺野古埋め立て承認に法的瑕疵(かし)はなかった事実もある。難しい問題だからこそ何十年も結論が出ないまま対立ばかりが続いてきた歴史がある。辺野古反対の民意と法的瑕疵はないという二つの事実を踏まえ、国益と県益の狭間の中でどう県益につなげるかが大事だ。
【政権・県政評価】安定政権、評価高い(安里氏) 国、民意ないがしろ(高良氏)
―安倍政権、玉城県政をそれぞれどう評価するか。
高良 安倍政権は評価できない。県民投票で示された、前回の知事選をも上回る辺野古反対という圧倒的な民意に対して工事を止めようともしない。民意をないがしろにしている。
法を守るべき立場の政府が自分たちで勝手に解釈して問題ないと言ってしまうことが問題で、申請もなく護岸から土砂の陸揚げをしていることも問題だ。申請の必要があるかどうかは自分たちで考える問題ではなく法律に従うべきだ。政府の責任と立場というのを全うすべきだ。
玉城県政については評価する。翁長知事がやってきたことを引き継いでいる。21世紀ビジョン、アジア経済戦略構想をもって沖縄振興を実現するために行動している。サポートしたい。
安里 安倍政権は一定の評価をする。安定した政権になっていることは国内外から評価が高い。ただ対沖縄問題で溝がどんどん深まっている現状については危ぐしている。政権の真ん中に沖縄の厳しさをしっかり訴え、より沖縄を理解してもらう努力をしていく。
玉城県政はまだ立ち上がって半年なので評価のタイミングではない。任期中にどこまで県民との約束をつくり上げていくかを見届けたい。ただポスト振興計画に向け、本来は国との協議を始めてなくてはならない時期だが、テーブルすらつくられていない。半世紀先の沖縄を考えるのにとても大事な時期に協議が行われていないことを危機感として受け止め、責任政党として溝を埋めていく。
【クロス討論】
高良氏から―辺野古は反民主主義では? 自民党内で声上げる(安里氏)
安里氏から―「安保体制破棄」の真意は? 憲法が上にあるべき(高良氏)
高良 辺野古について、法の支配というのは民主主義が底流にあって初めて法律ができる。県民投票で民意が出ているにもかかわらず工事が強行されるのは大きな民主主義の問題だと思うが、どう考えるか。
安里 法律は法律、民意は民意。民主主義国家で法治国家なので、県民投票の民意と法的な瑕疵(かし)がないという二つの事実をねじ曲げれば、また県民を分断に巻き込むだけだ。事実を重く受け止め、時間がかかっても丁寧に議論を進めていく。外からほえても変わらないことを平成で学んだ。自民党の中で声を上げて沖縄への認識を改めてもらう。マジョリティーのところにくさびを打ち、沖縄の基地負担の重さ、厳しさについて理解を広げていく以外に道はない。
安里 オール沖縄の枠組みをつくった翁長雄志前知事は日米安保を大事にすると言って保守層もそれに対してある程度理解を示していた。高良氏は政策発表で「安保体制破棄」と発言した。真意を確認したい。
高良 思想的な問題ではなく憲法の問題だと考えている。憲法よりも安保条約が上にあるべきではない。憲法が上にあってその下で批准された条約だが、安保条約が憲法よりも上にあるような扱いの中でいろいろな問題が起きている。沖縄の現状はまさにその状況に基づいている、ある意味で異常な状態だ。安保条約の体制は、安全保障を軍備から一面的に見ている。安全保障の考え方がずいぶん変わってきていることを考えると将来的な在り方は議論するべきだ。
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安里氏から―討論会に不参加の理由は? 日程管理などの問題(高良氏)
高良氏から―消費増税に対する認識は? 推移見守り取り組む(安里氏)
高良 消費増税は国政野党は反対しているが、どういう認識か伺う。
安里 キャッシュフローが回っていない国の財源確保のために一歩踏み出すという判断だ。社会的責任として子どもの厳しい現状を救わなければいけない。軽減税率を課してのスタートだ。今後の推移を見守りながら取り組んでいきたい。
高良 大企業がもうかれば利益が落ちてくるという考えは失敗した。消費税は生活に直接影響がある。
安里 「県民の声」100人委員会の発足など高良氏擁立で「オール沖縄」態勢が崩壊しているとの指摘もある。委員会による公開討論会不参加の理由は。
高良 100人委員会は「オール沖縄」ではない。要求していることは私を降ろしなさいということだった。個人攻撃ではないとあったが、名前は出てなくても私しかいない。それはひきょうなやり方だ。討論会への不参加はキャンセルしたわけではなく、私がスケジュール管理をしていなかった問題もある。
安里 少数の声も聞くべきだ。私も平和を背負っている。「真の平和の1議席」は我々も主張する。
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【出席者】
高良鉄美氏(65)=無所属
たから・てつみ 1954年1月15日生まれ、那覇市出身。84年、九州大大学院法学研究科博士課程修了。95年に琉球大教授に就任し、2011年から同大法科大学院教授。専攻は憲法、公法学。3月末に退官した。オール沖縄会議共同代表を務める。
安里繁信氏(49)=自民公認、公明、維新推薦
あさと・しげのぶ 1969年10月7日生まれ、那覇市出身。早稲田大大学院公共経営研究科修了。総合物流「あんしん」などで構成するシンバホールディングス前会長。日本青年会議所会頭や沖縄観光コンベンションビューロー会長などを歴任した。
進行役 新垣毅(琉球新報社編集局政治部長)