「はいたいコラム」 棚田の文化を商品に


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 島んちゅのみなさん、はいたい~! 棚田地域振興法が成立し、棚田は「貴重な国民的財産」であると、国によって位置付けられました。沖縄の国頭村奥にも住民たちで復活させた棚田がありますね。棚田支援策に期待が集まる中、「棚田学会」の現地見学会で長野県へ行ってきました。

 同県上田市の稲倉の棚田は、「棚田百選」に認定され、棚田オーナーや酒米オーナー制度で市民を募るほか、棚田キャンプや軽トラツアーなど、棚田での体験をレジャーとして商品化し、お米は1キロ1200円で販売しています。

 交流館には保全活動協力金として1人100円の募金箱が置かれ、年間30万円集まるそうです。箱の下には、近くの神社の御札(おふだ)箱があり、募金したご利益に御札が頂けるという仕組みです。

 棚田保全にお金を取ることに違和感を覚える地元の人は多いようです。生産者のプライドは理解できますが、神社にはみな喜んでおさい銭を投じます。自分のご利益を祈願しながら、結果的に神社に寄付しているのです。パワースポット、聖地、絶景、癒やしは、女子旅のキーワードですが、考えれば、棚田ほどエネルギー溢(あふ)れるスポットはありません。

 霊峰からの清らかな水が流れ、天と地の力を集めてお米という恵みが空に向かって伸び、一枚一枚の田が階段状に連なる風景は、人々の心を揺さぶります。

 棚田には多面的機能があります。いわゆる食料生産だけでなく、水田が天然のダムとなって大雨や洪水時の土砂崩れを防ぎ、生物の多様性を育み、何より見る人の心に安らぎをもたらします。そんな日本の誇るべき農業を残したいと思う人は多いはずですが、棚田を訪ねた記念のおみやげは、お米だけでよいのでしょうか。

 いまや中食市場は10兆円を超え、おにぎりや弁当は5兆円に迫ります。都市部では、ご飯やおにぎりは買うものであり、家でお米を炊かない人が増えています。棚田を応援したくても、旅先でお米を買って帰る人は少ないのが現実です。農業も「物」より「物語」の時代です。農産物の付加価値、6次産業化にもさまざまありますが、消費者の心や満足度に訴える商品開発、都市と農村の双方を喜ばせる棚田ブランディングが求められています。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)