沖縄の日本復帰以降、インフラ整備を中心とした公共事業主導の振興計画により多くの予算が投下されてきたにもかかわらず、沖縄経済は一貫して需要不足による高失業率、低有効求人倍率、低所得に悩まされてきた。企業は低賃金で雇用し、利益を上げることができたため生産性向上のインセンティブ(誘因)は弱かったといえよう。
しかし、近年の入域観光客数(特にインバウンド)の増加=外需増は、失業率、有効求人倍率を改善させ、現在、賃金上昇を促しつつある。その結果、復帰以降、初めて沖縄でも人手不足が指摘されるようになってきた。人手不足は企業にとっては問題だが、労働者側からみれば待遇改善の大きな機会でもある。
参院選における争点の一つである次期沖縄振興体制で注目すべき点は、自立経済の構築に向け、現状の人手不足の課題を新たな制度構築により飛躍に転換できるか否かにある。求められるのは、生産性向上を促すインセンティブを人々、企業、産業、地域、全県の各レベルで促す制度(インセンティブの構造)の構築である。
特に、地域・県レベルでは辺野古新基地建設の是非で政府が補助金額を増減させることにより人々の選挙動向をコントロールするような「基地と補助金をリンクさせる」制度は生産性向上の観点からは「百害あって一利なし」である。
現行制度は、経済の「パイの分配競争」を促す政治的インセンティブが強く、「パイ自体の拡大=成長」を促す経済的なインセンティブ機能が弱いため、生産性向上につながりにくい。
本年度の「振興予算」の配分を見ると、一括交付金が年々減少するのと対照的に政府が直接、市町村や企業に交付、配分する北部振興事業費、離島活性化推進事業費、沖縄振興特定事業推進費などの比重が高まってきており、県と特定市町村、県と特定利益団体、そして県民同士の分断を誘導する政府の政治的意図が透けて見える。県内の分断(ソーシャル・キャピタルの毀損(きそん))は、自発的協調行動を妨げ、経済活動の効率化や活性化、そして成長にもマイナスの影響を及ぼす懸念がある。
(経済学)
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21日に投開票される参院選沖縄選挙区の主な争点について識者の視点を紹介する。