「はいたいコラム」 川や海の資産価値


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 島んちゅのみなさん、はいたい~! 連日35度を超える猛暑日の東京からすると、近頃は沖縄の方が過ごしやすそうですね。

 ニュースでは、熱中症のリスクを避けるため、学校プールの中止が相次いでいるそうです。せっかくの夏休みにプールに行けないなんてかわいそう~と思いきや、先日、仕事で訪ねた和歌山で知り合った人の長男Sくん(小学4年生)は、プールが嫌いなのだそうです。なぜだと思いますか。カルキの臭いが気になるから?部屋でゲームをしたいから? Sくんの答えは「プールには生き物がいないからおもしろくない」というものでした。

 そこは和歌山でも紀伊半島の山間で、熊野古道の入り口があることから口熊野と呼ばれ、清らかな川が流れています。Sくんはプールより川で遊びたいということだったのです。水辺や水中には、サワガニ、川エビ、小魚からトンボまで、いろんな生物がいます。わたしも高知県黒潮町という中山間地の田舎で子ども時代を過ごしましたから、川は泳ぐだけでなく、いろんな遊びをしたのを覚えています。

 消毒されたプールにいる生き物はおそらく人間だけですが、川は個々の興味・関心や、女子と男子、大人と子どもでも関わり方は違いますから、実に多様なコンテンツを含んでいるのです。

 こうした自然界がもたらす恵みのことを環境学では「生態系サービス」と呼びます。川底の石にコケが生えているから鮎(アユ)が生息し(食べておいしい)、カワニナがいるからホタルの乱舞があり(眺めて楽しい)、川は生き物の楽園であり、人間にも恩恵をもたらしているのです。これは資産価値にすると大変なもので、もちろん海も同様です。

 以前、農泊発祥の地、大分県の安心院で、バカンス法の制定に向けたシンポジウムがありました。働き過ぎの日本人にヨーロッパのような長期休暇を法律で定めようという動きで、農家に泊まることで農村の収益にもなります。

 都会でクーラー全開にして、ヒートアイランド現象を加速させるよりも、涼しげな自然に癒やされ、おいしい水と食べ物で心身ともに健康になる方が、経済にも環境にも効果的です。何しろ気分爽快になれるのです。気候変動に対しては、組織も個人もできる努力はするべきですが、そろそろ制度として、ライフスタイルを考え直す転換期なのではないでしょうか。

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)