有名作家の百田尚樹氏が自民党の勉強会で、「本当に沖縄の二つの新聞社は絶対つぶさなあかん」と発言したのは2015年6月のこと。
発言自体はひどいものだが、あの頃はほかの新聞や雑誌で大きな騒ぎとなった。ほとんどが百田氏の発言は言論弾圧だとして強く批判する論調であった。
あれから4年たって、日本のマスコミはどうなっているだろう。テレビのニュース番組は政権が発表することをほぼそのまま流す。ワイドショーは連日、韓国の動きを取り上げ、いかにひどい国か、いかに日本に敵対的か、と煽(あお)るだけ煽っている。これもまた、政権の動きを後押しするものだ。
この8月には、「あいちトリエンナーレ」という3年に一度の芸術祭に外部から脅迫電話などが押し寄せ、一部の展示が中止に追い込まれるという事件も起きた。批判が集中したのは、従軍慰安婦のような戦時性暴力がなくなることを願った「平和の少女像」だが、それを展示することが韓国の主張を呑(の)むことになると見なす政治家や市民がいたのだ。しかし、それに対してもかつてのようにマスコミが一斉に「展示中止は表現の自由の弾圧」と大騒ぎになることはなく、多くが中立的に事態を報じただけだった。
どうした、マスコミ。この4年でいったいなぜ変わってしまったんだ。権力の顔色をうかがい、政権の意向に沿わない報道はなるべくしないようにするといういまの姿勢は、もはやマスコミと呼ぶことさえできない。
東京にいると、沖縄の基地問題の報道が減っているのも感じる。「逆らっても仕方ない」「おもしろおかしければいい」というマスコミの堕落に、せめて私たちは巻き込まれないようにしたい。これからも、本紙が伝えるような良い情報に触れ、自分の頭で考えていこう。これまでそうしてきた沖縄のみなさんになら、これからもきっとできるはずだ。
(香山リカ、精神科医・立教大教授)