「これまでの環境は本当に異常だった」。本部町備瀬の40代の男性は、観光客が殺到した時期を振り返り表情を曇らせた。集落内にある「備瀬のワルミ」はパワースポットとして人気が高まり、観光客が国内外から押し寄せた。騒音や違法駐車などトラブルが相次ぎ、2年前に地元住民がワルミへの立ち入りを禁止した。今はワルミへ足を運ぶ観光客はいない。男性は「やっと普通の生活に戻った。観光客が増えて良かったと思ったことは一度もない」とつぶやいた。
ワルミには、3年ほど前から観光客が訪れるようになった。地元の人にとってワルミは聖なる場所で、本部町観光協会も観光地として位置付けていなかった。しかし、岩の割れ目から海を望むワルミの写真がインターネットに掲載されると、一気に注目度が高まった。多いときには一日に約300人が訪れ、集落内の事業所や農道への違法駐車が相次いだ。生活道路がレンタカーで渋滞し、交通事故も発生するなど、日常生活に支障を来した。
地元の男性は「地域住民はみんな怒っていた。ルールを守らない観光客が多く、立ち入り禁止にするしかなかった」と明かす。ワルミへ向かう道をフェンスで閉鎖した直後も、しばらく観光客が訪れていたが、今年に入って落ち着いた。男性は「沖縄は観光で潤っていると言うけど、人が増えすぎることで被害を受けている場所もある」と訴えた。
備瀬地区には観光スポットとして人気のフクギ並木もあり、平日でも多くの観光客でにぎわう。備瀬区の兼次静夫区長は「昔は1日に数台、車が行き来する程度の集落だった。今はレンタカーが頻繁に行き交う」と語る。細い路地で車が立ち往生するケースも頻発し、住民が交通整理に当たることもあるという。兼次区長は「今は車がいつ入ってくるのか分からない状況だ。しっかりと対策をしないといけない」と考えている。
沖縄美ら海水族館がある本部町には年間約500万人の観光客が訪れ、約80万人が宿泊しているという。大型クルーズ船を受け入れるための施設整備も進み、今後も観光客の増加が見込まれる。町観光協会の當山清博会長は「こんな小さな町に大勢の人が足を運んでくれる」と歓迎する。一方で、観光客の急増がオーバーツーリズムにつながることも懸念する。
當山会長は「行政や地域住民が一緒になってルールづくりを進めることが、オーバーツーリズムを回避する手段になる」と指摘する。北部の各地域へ観光客を呼び込む施策も進め、一部の地域に集中する状況を解消することも提案する。當山会長は「北部全体で取り組みを進めれば課題を解決できるはずだ」と述べ、地域と調和の取れた観光の重要性を強調した。
(「熱島・沖縄経済」取材班・平安太一)