経済

「はいたいコラム」 森で健康ツーリズム

 島んちゅのみなさん、はいた~い!この夏も全国の農村を歩いて回りました。静岡県森町天方地区には、国内有数の「半夏生(ハンゲショウ)」の群生地があります。

 半夏生とはドクダミ科の多年草で、夏至から11日目の半夏生の頃に開花し、葉の一部だけおしろいを塗ったように白くなることから名付けられた草花です。遊歩道を1キロほど歩くと森の中に開けた湿地が現れます。一面に生い茂る緑の葉に白い色が浮かび上がる光景はなんとも幻想的で、おとぎの世界を思わせます。

 森町の半夏生が観光地として知られるようになったのは、ここ数年のことです。昔から田んぼの畦(あぜ)によく生えていた半夏生は、稲の成長の邪魔になると、見つけては引っこ抜いていた雑草でしたが、時代とともに森の奥の水田を耕す人はいなくなり、長い間放置されていました。田んぼが消え、人の往来の少なくなった森の中で半夏生は静かに根を張り、見事な群生地に成長していたのです。

 今ではハイキング客から写真愛好家までさまざまな人が訪れます。「畦の雑草だと思っていた半夏生に、こんなにも人を惹(ひ)きつける魅力があったとは知らなかった」と地元の人は語ってくれました。有志で「てんぽうの里半夏生」という会を立ち上げ、メンバー9人で、枝打ちや下草刈り、木道を配置して遊歩道を作り、多くの人に見てもらえるように整備したのです。

 昔は苦労してでも作る必要のあったお米ですが今ではその価値が変わり、この地域の水田が放棄されたのも当然のなりゆきです。ですが、人が耕作を止めても、自然は営みを止めることはありません。その環境、条件に合った半夏生は長い年月をかけてその地に子孫を残し、ある日、多くの人々を魅了する景観に成長していたのです。この話を聞いて私は森からのメッセージに思えてなりませんでした。

 農村や里山の価値とは何でしょう。昔は食料という形で恵みを授けてくれましたが、今の時代は栄養やカロリーよりも欲しいのは、感動や健康、心を和ませる空間や休む場です。すがすがしい自然の癒やしこそ、森や海の持つ最大の恩恵です。これからは生産だけでなく、カロリーよりもヘルシー、歩いて運動して楽しむヘルスツーリズムで人々の心と身体を健康にする視点を持てば、農山漁村は都市に最も足りないものを提供できるはずです。(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

(フリーアナウンサー・農業ジャーナリスト)

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小谷あゆみ(こたに・あゆみ) 農業ジャーナリスト、フリーアナウンサー。兵庫県生まれ・高知県育ち。NHK介護百人一首司会。介護・福祉、食・農業をテーマに講演などで活躍。野菜を作るベジアナとして農の多様性を提唱、全国の農村を回る。

(第1、3日曜掲載)



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