外国人客が多い病院では、患者と医療スタッフとの言語の壁が円滑な診療の課題となる。
県立八重山病院では、昨年から国と県から支給された翻訳機能付きタブレットで外国人に対応している。導入前は職員の知り合いのつてから華僑を探し、通訳のボランティアを頼んでいたという。英語を話せる医師やスタッフは多いが、近年は中華圏からの観光客が増え、中国語の対応が難しかったためだ。
外国人対応の専門部署の設置や中国語にも対応できる人材を常に配置したいが、「新たに人員を配置しても収益は変わらないので難しい」と人件費などコスト面で厳しさがあるという。
医者と患者が英語でやりとりをする中でニュアンスや理解の行き違いを招くこともあった。ある外国人患者は、次の日に乗る予定だった飛行機がキャンセルになったことを医師に伝えたつもりだったが、医師は予定通り翌日退院のつもりで準備をした。現場にいた男性職員は「患者の了解を得られたと思っても相手は違うことを考えていることがある」と話す。
医療現場での意思疎通のずれは事故の元になる可能性もあり課題だ。
こうした離島の医療現場の悩みに貢献しているのがITだ。県は2018年度から外国人の利用が多い県内36医療機関に翻訳タブレットを配布した。ビデオ通話でコールセンターにいる通訳者につながり、16言語に対応できる。
一方で県の事業が終了した後の病院での費用負担の不安はあり、病院関係者は「このまま行政で支給してほしい」と訴える。外国人客が増えると、配布される翻訳機が足りなくなる可能性も出てくる。県の担当者は「医療機関から翻訳機は必要との要望があるので事業は継続したい」と話す。
医療現場にも人手不足が広がる中、離島はさらに深刻だ。外国客は外来ではなく24時間対応救急で診察する。観光客の増加で救急対応は手いっぱいだ。外国人の受診は、日本人と同じ治療でも時間のかけ方が違うため、経営上も引き合わないという。
県立八重山病院での外国人の医療費は日本人と変わらない。他府県では、診療価格を日本人は1点当たり10円のところ、外国人からは1点30円という設定で多く請求する病院もあるという。しかし治療費を上げれば患者の支払額も上がるため、未払いにつながる危険性も高まる。
県立八重山病院の篠崎裕子院長は「観光客が増えて経済が潤うのも良いが、その分影響を受けている現場があるということも知ってほしい」と話した。
(「熱島・沖縄経済」取材班・中村優希)
※注:篠崎裕子院長の「崎」は、「大」が「立」の下の横棒なし