【識者談話】市民逆提訴は実態欠く「違法な民事訴訟」 内藤光博・専修大教授


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 宮古島市側は名誉毀損(きそん)として主張しているが、誰のどのような名誉毀損と損害が発生しているのか具体性を持っていない点で問題がある。裁判でどういう損害を回復したいのか市側も分かっていない。裁判の実体を欠く「違法な民事訴訟」といえる。結局は損害賠償を請求することによって市民に経済的、精神的な負担を強いる。意見表明を萎縮させる効果を持たせる訴訟で、スラップ訴訟そのものだ。

 名誉権は憲法上で保障され、民法でも名誉毀損は不法行為になる。一方で、名誉権は権力者などの公人と一般私人では保障範囲が違うというのは判例や学説で一致している。公人の保障範囲は非常に狭められている。権力者がある表現を「名誉毀損だ」と言うと政策に関わることを抑圧することになり、民主主義が成り立たない。

 憲法上の権利は権力にくみしない少数者を守るためにある。権力側が守らなければならない憲法をないがしろにし、形式論的に法律に訴え、少数者の反対意見、人権が押しつぶされている。本来は少数者の名誉を侵害せず、人権を保障することが公権力に課せられた責務だ。

 (憲法学)