増加する観光客の受け入れに必要なホテル開発が県内各地で進む。一方で、国内外の大型資本が土地を買い占め、地域住民の意思とは別に企業主導で観光地開発が進んでいくという問題もある。国内外からの来島者で沸く八重山諸島では、地域の景観や風土の喪失を危ぶむ住民と事業者との間で摩擦が生じる事例が起きている。
国の名勝の川平湾を誇り、石垣市の代表的な観光地である川平地区。大手ホテルブランドによる「マリオットリゾート&スパ イシガキジマ」の建設計画が持ち上がったのは2016年だった。県内離島で最大の360室規模というホテル計画に、住民の間に「高層のホテルが建つらしい」とのうわさが流れた。
森や畑など自然が広がる地域の住民からは「農村の原風景を残すべきだ」と反対運動が起きた。
川平地域では乱開発を防ぐために、景観法に基づく景観地区として建物の高さを7メートル以下(一部10メートル以下)に制限してきた。
だがホテル計画が持ち上がった当初、石垣市は「観光客受け入れの宿泊施設が必要」「災害時の避難ビルになる」と住民向けに説明するなど、川平湾を眺望できる高層ホテルの建設に協力的だった。建築物の高さ制限を緩和するため景観地区の見直し手続きに市が動くと、住民の反発はさらに強まった。
住民らは「川平の景観を守る会」を発足し、川平地域における開発規制の維持を求めて反対運動を繰り広げた。運動は、市による景観計画・景観地区変更の差し止めを求める訴訟を提起するまでに発展した。
結局、川平地区の景観地区変更案は石垣市都市計画審議会で否決され、これを受けて中山義隆市長は変更手続きを中止することを発表した。
川平公民館の高嶺善伸館長は「個人の財産権を制約してまでも川平らしさを守ってきたのに、どうしていまさら制限緩和なのか疑問だった」と振り返る。
石垣市では復帰直前、台風や干ばつにより農家の収入が途絶える苦しい時期があり、農地を売って県外に出稼ぎに出て行く人が多かった。それを機に川平も含め、石垣市の海岸線約2千ヘクタールが県外資本に買い占められた背景がある。
川平地区では農業生産法人を立ち上げ、企業に所有権が移った用地50ヘクタールのうち20ヘクタールを農用地として買い戻した。その当時買い戻せなかった土地で今回のホテル計画が起きた。
まだ高さ制限がなかった13年前にも今の川平公民館が建っている土地で、13階建てのツインタワーのホテル計画が持ち上がった。その際も住民の反対運動があって企業側が建設を断念した。再び開発計画が起こることを危惧した川平住民は、石垣市に土地を取得してもらい、公民館を建てることで開発を防いだ。
高嶺館長は「観光客が何を求めて石垣島に来るのかを考える必要がある。畑や果樹園など農村の風景や自然こそが観光客にとって癒やしの空間になるのではないか」と観光振興の在り方を問い掛ける。
(「熱島・沖縄経済」取材班・中村優希)