沖縄の県知事は、他府県の知事とは違って解決困難な基地問題に取り組まなければならない。玉城デニー知事の場合、辺野古埋め立て承認撤回の後に就任しており最初から政府と対峙(たいじ)することが余儀なくされ、荒波の大海への出航であった。
最初に直面したのは県民投票だ。5市が選択肢の在り方などを巡って異議を唱え、不参加を表明し、県民投票はつぶれるのではないかと危惧された。ところが5市の要望を受け入れ、選択肢を「2択」から「3択」に条例を改正し、全市町村参加の県民投票の実施となった。県民投票で辺野古新基地建設反対が72%であるという明確な民意を政府に突きつけたことは画期的であり、大きな成果であった。
県民投票を乗り越えた知事を待ち受けていたのは、「関与取り消し訴訟」である。知事は裁判の意見陳述で「国と地方自治の在り方そのものを問い掛けるものだ」と訴えたが、基地問題では国策、官邸の追認機関となった裁判所は、実質審理を尽くして沖縄の切実な声を聞くこともなく、わずか40分で閉廷となったのは知事にとって痛恨の極みだ。
続く抗告訴訟は1~2年かかるともいわれており、その間、実質審理を回避する裁判の実態を講演会、シンポジウムを通して県民に訴える運動も必要だ。トークキャラバンのさらなる展開などで、全国民に訴えていくことも大切だ。米国議会の国防権限法案へのロビー活動も大事だ。
1年間を振り返ると、知事は基地問題に翻弄(ほんろう)されたのではないか。しかし県政の課題は、経済、福祉、教育など広範囲にわたる。特に、万国津梁(しんりょう)会議で取り上げる「児童虐待防止の条例」「誰一人取り残すことのない社会」の実現などの課題にも取り組むことが期待されている。その会議での成果は知事の評価に大きな影響を与える。
(照屋寛之・沖国大教授 行政学)