「分かったふり知ったかぶりはいらない。分からないなら納得しないでいいから、理解してほしい。知らないなら、知識を頭の中にインプットしてほしい」
これは、ある相談を機にコーディネーターとつながったHIVとともに生きるYさんが、当事者の立場から医療、介護、福祉従事者や行政関係者に対してつづったメールの一文です。
「納得しないでいいから、理解してほしい」。当事者から発信されたこの言葉の意味、背景を読者の皆さんもいま一度、考えてほしいと思います。
過去、日本ではハンセン病に対する誤った理解のもとに、患者や回復者、その家族に対し、法律で強制的に隔離するなどといった差別がありました。また記憶に新しいものでは、2020年の新型コロナウイルス感染症があります。私たちは新たな感染症に不安や恐怖を抱き、当初は、感染者や医療従事者、その家族に対し過度な行動がとられました。
しかし、これらは正しい知識を得ることによって適切な対策をとることができ、安心につながったのではないでしょうか。これらの経験からも私たちは、正しく知る、理解することの大切さを痛感しているはずです。
ではHIV感染症ではどうでしょうか。治療が進歩し、科学的な根拠が示された今なお、診療や施設入居、サービス利用などの受け入れ拒否など、偏見差別は根強く残っています。もうHIV感染症に対する偏見差別は終わりにしませんか。正しい知識を得ることは不安や恐怖、そこから生まれる偏見差別の解消につながります。
出前研修では、HIV/エイズに関する基礎知識、感染対策、陽性者へのケアなど、正しい知識をお伝えしています。受講後、HIV陽性者の受け入れにつながった医療機関や事業所、介護施設などもあります。当事者のYさんの「理解してほしい」という思いは難しいことではないはずです。
同じ社会に生きている人々が病名を理由に分断することが0(ゼロ)になるよう、社会全体で理解すること。また医療、介護、福祉、行政機関の皆さん、私たちには、専門職としてできることがたくさんあります。それぞれの立場から「理解してほしい」を実現しませんか。
(新里尚美、琉球大学病院第一内科・県感染症診療ネットワークコーディネーター)