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新たな問題 陽性者3~5人に1人、認知機能低下<じぶんごとで考えよう HIV/エイズ>18


新たな問題 陽性者3~5人に1人、認知機能低下<じぶんごとで考えよう HIV/エイズ>18
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報社

 HIV感染症は治療法の進歩により、もはや「死の病」ではなくなりました。しかし、HIV陽性者の長期生存が可能となってきた現在、新たな問題が浮上しています。その一つに、HIVに関連した神経認知障害(HIV associated neurocognitive disorder、略称HAND)があります。

 HIVウイルスは脳の働きをつかさどる中枢神経系にも影響を及ぼし、HIVに感染すると認知機能が低下することがあります。詳細な原因や治療法はまだ明らかになっていませんが、認知機能低下を防ぐための研究が現在世界中で進められているところです。日本全国の調査ではHIV陽性者の3~5人に1人がHANDを伴うことが報告されています。

 HANDの典型的な症状としては、集中力が低下する、物忘れがふえる、思考や情報処理のスピードが遅くなるなどがあります。多くは軽症で、本人も周囲も気が付くことが難しく、「なんだかおかしい」けど、「疲れているのだろう」などと見過ごされる事例が多くみられます。

 HANDは、治療や社会生活、メンタルヘルスの面でさまざまな問題が生じます。例えば、抗ウイルス薬を飲み忘れてしまい、治療がうまくいかなくなることがあります。

 また、スケジュール管理不良やうっかりミスが増加することで、就労の面で問題を抱えてしまうこともあります。さらに、HANDは抑うつや依存症などのさまざまな精神疾患との関連も指摘されています。これらの問題が複合的に絡み合い、通院が難しくなるなど治療継続を妨げる要因になります。

 HANDにならないためには、抗ウイルス薬を確実に服薬し、治療を継続することと、就労生活を維持することが効果的であることがわかってきました。そのため、できるだけ早い時期にまず感染に気付き、陽性が判明したら治療を開始し、服薬を中心とした治療を継続することが将来のHANDを防ぐことになります。

 また、すでに認知機能の低下を自覚されている場合も、詳細な検査を行うことで対処法に着手し、社会的なサポートを受けることができます。琉大病院や多くの拠点病院では認知機能についての個別相談も可能です。

 認知機能の面からも、HIV検査と治療へのアクセスは重要です。私たちはこれからも皆さんの心と脳の健康をサポートするために、何ができるか考えていきたいと思っています。

 (上 薫、琉球大学病院脳神経外科/県公認心理師協会 臨床心理士・公認心理師)