〈ドクターのゆんたくひんたく〉194 麻酔科医の仕事 手術全体をコーディネート


〈ドクターのゆんたくひんたく〉194 麻酔科医の仕事 手術全体をコーディネート
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 手術を予定されている患者さんは不安でいっぱいかと思います。安全で安心して手術を受けていただくために、実は麻酔科医の役割は大きいです。今回はその仕事内容をご紹介したいと思います。

 (1)手術内容を把握する。手術に至った経緯や予定している手術方法、所要時間などをチームで共有し、手術を行うことによって想定される事態を総合的に検討します。時には執刀医に手術の中止を助言しなければならないこともあります。

 (2)患者さんの状態を把握する。全身状態の評価のために実際に麻酔科医師の診察があります。身体診察に加え持病やアレルギー、内服薬、家族歴を聴取し麻酔が体に与えうる影響や可能性を検討します。麻酔の計画は数人の麻酔科医で検討会を行うこともあり最善策を追求し十分に準備します。麻酔科医はいかに不測の事態にも備え準備できるかということが力の見せどころですし、得意分野でもあり、リスクマネージメントの専門家とも言われる所以(ゆえん)です。

 (3)手術中の管理。麻酔を担当する医師がモニターを使って絶え間なく血圧、脈拍、呼吸、体温などの全身状態を看視しています。麻酔薬や呼吸の調整、点滴や輸血のタイミングを見極め執刀医が手術に集中できるようにサポートします。想定外の事が起きても冷静に分析して対処し、手術室リーダーとしての役割を全うします。

 (4)術後の痛みを軽減する。術後の痛みに対して備えておくことも麻酔科医の大きな役割です。手術部位の近くに麻酔薬を直接注射し痛みを遮るブロック注射や、脊髄の近くに注射を行う硬膜外麻酔を行い、痛みを軽減することができます。痛みを可能な限り取り除くことは、術後の回復や生活の質にも大きく関わってくるのでとても大切です。

 このようにして手術前、手術中、手術後を通じて手術を乗り切るために独自の臨床知識とスキルを併せ持ち、全体をコーディネートしているのが麻酔科医なのです。外科の手術の複雑さが増しているにもかかわらず何事もなく手術が完遂する背景には、皆さまの気づかないところで麻酔科医の活躍があるからといえます。不安な事、疑問に思う事などがあれば、遠慮せずに聞いてください。

 (阿川幸人、与那原中央病院 麻酔科専門医・救急科専門医)