世界ボクシング機構(WBO)フライ級王者の中谷潤人さん(23)=三重県東員町出身、神奈川県相模原市在住=が4日に来沖し、読谷村波平のチビチリガマなどの戦跡を訪れた。中谷さんは中学生の時、修学旅行でチビチリガマを訪れたことをきっかけに、平和の大切さを深く感じ、案内役を務めた「地域ガイド風の会」の比嘉涼子さん(64)と交流を続けてきた。戦没者の冥福を祈って花束をささげ、黙とうした中谷さんは、平和だからこそボクシングに取り組めることに感謝し、さらなる飛躍を誓った。
中谷さんが初めてチビチリガマを訪れたのは2012年5月。三重県の東員(とういん)第二中3年生の修学旅行だった。沖縄戦の際、住民たちが当時の教育に基づく考えの中で「集団自決」(強制集団死)に追い込まれ、身内同士で命を奪うなど、悲惨な状況について聞いた。
当時「命こそ宝という言葉に心を打たれた」と振り返る。「命を投げ出さざるを得なかった状況の人たちがいる中で、今こうして生かしてもらっていることも当たり前ではない。すべてに感謝しないといけない」と強く感じた。
旅行後に比嘉さんへ宛てた手紙で「戦争で亡くなった人々の可能性もせおってぼくが世界チャンピオンになって沖縄にすこしでも力になっていくために努力してがんばりたいです」とつづった。
中学卒業後、ボクシングの腕を磨き、20年11月に世界王者となり、21年9月に初防衛を果たした。宣言通りに世界王者となったことから、チビチリガマ再訪を希望し、約9年ぶりに訪れた。比嘉さんは改めて沖縄戦や沖縄の社会状況について話し「平和とは一人一人が創造していくもの」とメッセージを送った。約1時間の講話の間、中谷さんは直立し、うなずきながら真剣な表情で聞き入った。
チャンピオンベルトも持参して比嘉さんらへ報告し「結果を残してこの地に帰って来ることができたのはうれしい。平和を創造していく一人に僕もなっていけるようにしたい」と思いを新たにした。
(古堅一樹)