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農作物への影響は? 沖縄より高い値の県も 米国で進む規制とは (下)


農作物への影響は? 沖縄より高い値の県も 米国で進む規制とは (下) 本島中部地域の下水を処理している県下水道管理事務所(みずクリン宜野湾)の宜野湾浄化センター=宜野湾市内
この記事を書いた人 Avatar photo 島袋 良太

 下水処理場で発生する汚泥は、他の資材と混合された上で汚泥肥料として流通している。汚泥肥料を通してPFAS汚染が土壌に循環していないか、琉球新報は京都大学の原田浩二准教授(環境衛生学)の協力を得て、以下の物質についてPFAS濃度を分析し相対的な比較を試みた。

 ①国頭村の森林土壌 ②沖縄県内製造の堆肥 ③沖縄県内製造の汚泥肥料 ④佐賀県内製造の汚泥肥料。

 今回の分析結果は次の通りだ(表参照)。1キロ当たりで、国頭村の森林土壌がPFOS26ナノグラム、PFOA1018ナノグラム。県産堆肥がPFOS191・3ナノグラム、PFOA300ナノグラム。県産汚泥肥料が3767ナノグラム、PFOA937・2ナノグラム。佐賀県産汚泥肥料がPFOS3019ナノグラム、PFOA6万6323・6ナノグラム。汚泥肥料のPFOS濃度は、米ミシガン州が採用している規制値12万5千ナノグラムをいずれも下回った。

 一方、沖縄県産、佐賀県産とも、PFOS値は国頭村の自然土壌と比べると150倍以上がPFOS値が確認され、佐賀県産はPFOAだと6万ナノグラム以上に達した。

農作物への影響、研究必要

 原田准教授は分析結果について「宜野湾浄化センターの脱水汚泥の値からすると想定できる値だ。汚泥に含まれていたPFOSが肥料にもある程度入っているのが分かった」と話す。
 原田氏は米ミシガン州が設定している規制値は下回っているとした上で「汚泥肥料にPFASが含まれている場合、どの程度の水準であれば農作物に影響が出るのかを日本でも自前で研究し、明らかにしていく必要がある」と指摘した。
 周辺に米軍基地がない佐賀県で生産された汚泥肥料も比較対象としてサンプル調査したが、佐賀県産はむしろPFOAの値が6万ナノグラムを超える分析結果が出た。原田氏は「何らかのPFASの排水が入り込んでいるとしか考えられない。何があるのか現時点で把握できない。PFOAはPFOS以上に農作物に浸透するので対応を考えていく必要がある」と懸念を示した。
 「PFASの問題は沖縄で最初に注目されたが、全国さまざまな場所で環境中の排水に含まれることは十分あり得る。沖縄でも国頭村の森林土でPFOAが検出されたが、比較的道路に近い場所なので、雨水などを伝って流れてきたのかもしれない。全容調査をすることが大切だろう」と指摘した。

沖縄県内は肥料化と緑地利用

 日本では、汚泥肥料を貴重な資源と位置付け、利用の拡大を計画している。22年には政府が「食料安全保障強化政策大綱」で、30年までに堆肥、下水道資源・汚泥の使用量を倍増する方針を掲げた。

 そもそも、県内で汚泥肥料はどう取り扱われているのか。県によると、16年度の実績では県内19の下水処理施設のうち9施設が脱水汚泥や乾燥汚泥、液状汚泥などを肥料化し、緑地や農地に散布する処理方法を採っている。残る10施設は肥料化はせず緑農地利用をしている。

 

県下水道課によると、これは下水道法22条2の2で定めた「発生汚泥等は(中略)燃料又は肥料として再生利用されるよう努めなければならない」という努力義務に基づく対応だ。

 汚泥の再利用で作られる肥料は、農林水産省がヒ素やカドミウム、水銀や鉛などの含有量について基準値を設け、基準を超える商品は販売できない。生活雑排水やし尿、食品工場排水には有機物や重金属などさまざまな物質が含まれていることが理由だ。

 ただ、PFASは比較的近年になって有害性が議論されるようになった物質で、現状、汚泥肥料中の含有量に関する基準はない。
 県下水道課の担当者は「国内法で規制が存在しない。米国や国内の動きを見てわれわれも動く方向を決めていくことになる」と説明する。

汚泥肥料、米ミシガン州は厳格化

 一方で、米国の米連邦機関・環境保護庁(EPA)は2024年末までに、汚泥肥料中に含まれるPFOSとPFOAに関して、リスク評価を完了する計画だ。含有濃度に何らかのリスクが「ある」と判断した場合、EPAが全米を対象とした規制値を設定する可能性もある。
 連邦機関より先に規制値を設定した米ミシガン州は21年、汚泥肥料中のPFOS濃度について1キロ当たり15万ナノグラム以上の場合には使用を禁止する基準を設定した。22年には12万5千ナノグラム以上へと厳格化した。

 特徴的なのは、ミシガン州では全ての汚泥肥料について使用に先立ちサンプル提出を義務付けている点だ。
 21年の州調査では、規制値を上回るPFOS濃度が確認された汚泥肥料は調査対象となった162サンプルの1%程度だった。
 規制値以下であっても、PFOSの値が1キロ当たり2万ナノグラム以上であれば、モニタリングと汚染源の特定に向けた調査、そしてその汚染源の除去対策も求めている。

 また、米メーン州では22年に汚泥肥料の全面使用禁止に踏み切った。同時に汚泥肥料は下水汚泥の低コストで有効活用法として定着してきた側面もあり、下水汚泥の今後の処分法について課題も浮上している。

燃料としての活用案も 施設なく肥料がベスト

 日本では、肥料化のほかに下水道法が汚泥の「再生利用」として挙げているのは燃料としての活用だ。これについては県内で導入事例がなく、県下水道課は「用途を切り替えるならば対応する施設が必要になるはずだが、現時点で県はそのような施設はない。整備には予算もかかるので、現状は肥料としての利用がベストだという判断をしている」と説明した。

 PFAS混入のリスクを理由に、汚泥肥料の使用を禁止する厳しい措置を取った米メーン州では、汚泥の処分について別の問題が発生している。汚泥を受け入れられる施設は州所有の埋め立て地1カ所だけ。一部は州外で処分され、そのための処理コストが新たに生じることとなった。

 メーン州では熱分解やガス化を通して汚泥肥料中のPFASを除去、軽減する技術の研究も進める。ただ、高熱処理の過程で新たな有害物質が発生する可能性もあるとも指摘され、解決にはハードルが複数存在している状況だ。

 土壌や汚泥肥料の分析を手掛けた京都大の原田浩二准教授は「現状は米ミシガン州くらいしか汚泥肥料に関するPFOS濃度の基準値を定めておらず、リスク評価の蓄積がない。とはいえ、米国環境保護庁(EPA)でも汚泥評価のリスク評価に関する動きが進んでいる。県や国も自ら評価できるように動くべきだ」と指摘する。

 さらに原田准教授は「汚泥肥料を今後も資源として活用するのであれば、透明性を持って、中長期的な視点で健康リスクをしっかり解明し、その上での利用が必要だろう」と指摘した。(島袋良太)