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「公益性」とは 国民に平穏な生活保障を 菅原文子さんコラム<美と宝の島を愛し>


「公益性」とは 国民に平穏な生活保障を 菅原文子さんコラム<美と宝の島を愛し> 菅原文子
この記事を書いた人 Avatar photo 琉球新報朝刊

 世界の目が注がれるガザ地区の脇を流れるヨルダン川は、日本最長の信濃川より50キロほど長いが、川幅ははるかに狭く浅い川だ。水源はイスラエル、レバノン、シリア、ヨルダンの国境が接するゴラン高原とアンチレバノン山脈に源がある。降水量の極めて少ない地中海突き当たりのこの地域は、水の確保が容易ではない。イスラエルはその水を独占し、水に不自由のない暮らしができている。

 一方、パレスチナ人は水の管理権を持たず、水道完備、農業用水に困らない日本人の想像を超えた苦難の中で暮らしてきた。さらにイスラエルは高さ8メートルのコンクリートの壁でガザ地区を封鎖し、物資食料の搬入、人の行き来を封じた。差別と迫害の歴史を生き抜いたユダヤ人なら、受けた差別や迫害を他に及ばさないと思うところだが、現実は真逆だ。報復の域を超えた攻撃をガザ地区にこれ以上、行うなら、ユダヤ民族、ユダヤ教に世界が抱いてきた尊敬を世界から失う。それとも選民思想を封じ、ユダヤの英知で世界に範を示す決断がネタニヤフ政権にできるか、世界は注目している。

 核兵器を持つ軍事大国、かつGDP上位の国イスラエルの政権が、ハマスからの奇襲を事前につかんでいなかったと報じられているが、にわかには信じがたい。パレスチナ自治区内に入植者を入れ、支配地拡大に並々ならぬ意欲、野心を見せてきたイスラエルは、自国民に多少の犠牲者が出るとしても、ハマスの奇襲を見過ごし、報復を口実に勝利すれば結果としてガザ地区占領支配が、国内外の批判を浴びずに可能になる。

 敗戦後、占領された日本でも戦後78年を経ても米軍基地という治外法権の支配域を、米国は手放さない。この常態化した占領により、極論の表現になるが、沖縄は四方の海という壁に囲まれたガザ地区的飛び地状態にあると言えないか。有事の際は、米軍、自衛隊が一体となって海上封鎖、空港封鎖も可能だからだ。

 辺野古裁判で国側の言う「公益性」には、米国本土に攻め込ませないため、また共産圏国に至近からにらみを利かせる米国のプレゼンスという米国の公益も含まれる。「日米の友好関係を損なう」と国側は主張するが、日米間にあるのは「軍事同盟」、それも日本が下位の軍事同盟だ。友好関係は軍事同盟がなくても築ける。

 辺野古裁判で国側の主張から抜け落ちているのは、安全で平穏な生活を営む日本国民としての平等な権利、また県内の民有地、県有地を県民の事業、経済活動に活用して得られる県民、ひいては日本国民の公益への視点だ。膨大な血税を投じ、米軍普天間飛行場の危険性をそのまま辺野古に運ぶに等しい政策が、日本と日本人にとって公益か。百歩譲って疑問符は付くが、国側の言う公益が辺野古建設にあると仮定しても、それとは比較にならない大きな損失がこの工事には潜在している。

 日本は貧しくなっている。社会も荒れ果てている。最も守るべき公益は国民の平穏な生活の保障で、それを後回しに米国の軍事基地建設を強行する政治には、独立国の自尊心も気概も見えない。常態化した沖縄県民への不公正、非人道性が、辺野古裁判を通して広く国民に見える化することを願うばかりだ。

 (辺野古基金共同代表)