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海外研究者から見た「沖縄と天皇」 沖縄戦が皇室観に影響 心寄せた上皇ご夫婦、令和でも <沖縄DEEP聞く>


海外研究者から見た「沖縄と天皇」 沖縄戦が皇室観に影響 心寄せた上皇ご夫婦、令和でも <沖縄DEEP聞く> 即位後、初めて沖縄を訪問され、沖縄戦の遺族らと言葉を交わされる天皇皇后両陛下=2022年10月22日、糸満市摩文仁の平和祈念公園(小川昌宏撮影)
この記事を書いた人 Avatar photo 梅田 正覚

 日本の天皇制研究の第一人者で米ポートランド州立大教授のケネス・ルオフ氏が10月に研究のために初めて沖縄を訪問した。沖縄で関係者と意見交換し、戦跡などを訪ね歩いたルオフ教授に「沖縄と天皇」について聞いた。

 海外の皇室との比較など「外から」の視点による斬新な分析で知られる。北海道大への留学経験があり、長年の研究の中では日本各地で天皇の印象について聞き取ってきた。

昭和天皇の意図

昭和天皇が1947年に側近を通じて連合国軍総司令部(GHQ)に沖縄の長期軍事占領を望んだ「天皇メッセージ」の内容を記録した米側の文書

 「日本人には天皇を尊敬している人が圧倒的に多い。ただ、昭和天皇については戦争責任があると言う人は本土にもいる。沖縄の場合は(そういう認識の人が)特に多いという違いがある。昭和天皇がもっと早く戦争を終わらせることができたら被害を減らすことができたという考え方からだろう」と述べ、沖縄戦が天皇や皇室観に与えた影響に言及した。

 沖縄は第2次世界大戦中、「国体護持」の名の下に激しい地上戦が繰り広げられ、県民の4人に1人が命を落とした。さらに昭和天皇は占領下の1947年9月、宮内省の側近を通じて連合国軍総司令部(GHQ)に沖縄の長期軍事占領を望む「天皇メッセージ」を発した。

 「(沖縄は)日本に主権を残しつつ、長期貸与の形をとるべきだ」「この占領方式であれば、ソ連と中国が類似の権利を要求し得ないことを日本国民に確信させるであろう」などとする内容だ。

 天皇メッセージは、沖縄が戦後27年間、米施政権下に置かれたことの「源流」となったと指摘されてきた。

 ルオフ教授は昭和天皇の意図について「米国の中には1万2千人の兵士の犠牲の上に沖縄を獲得したとの意識がある。恐らく昭和天皇は、米国が多大な犠牲を払って占領した地を簡単に返すことは現実的に難しいと考え、沖縄に有する日本の潜在主権を守ろうとしたのだろう。ただそれは沖縄の住民にとってはつらい経験だった」との見方を示した。

統合する役割

 昭和天皇は戦後、沖縄を訪問できなかった。代わりに沖縄を訪問し、沖縄戦の遺族と向き合ったのが現上皇ご夫妻だ。

 ご夫妻が初めて沖縄を訪れた75年には、沖縄戦で学徒動員された犠牲者の慰霊碑「ひめゆりの塔」に供花する際、火炎瓶を投げ付けられる事件も起きている。ご夫妻はその後も沖縄戦の遺族と交流し、心を寄せ続けた。

 ルオフ教授は2019年に即位した天皇陛下も同様に沖縄戦の遺族と向き合い続ける点に変化はないと見通す。「上皇さまは皇太子時代から沖縄のことをかなり勉強してきた。沖縄は本土から離れていて日本の共同体の一員との意識が希薄な面もある。上皇さまは沖縄と本土の距離が離れないように国を統合する役割を努めていた。天皇陛下も上皇さまから沖縄のことをいろいろ学んでいるはずだ」と話した。

 上皇さまと天皇陛下のスタイルについて「令和流の皇室は新しい面もあるが、平成流と大きくは異ならない。両者の断絶は大きくない」とも語った。

新しい皇室像

 話題はこれからの皇室の在り方にも及んだ。昨今は個人の権利の尊重が世界の王室の在り方にも影響を与えている。

 ルオフ教授は例として20年に王室を引退した英国のヘンリー王子の事例を挙げた。「21世紀になって個人の生活と国のための仕事のバランスを取ることは難しくなってきた。王族は一般の人のように気軽に喫茶店や映画館には行けない。ヘンリー王子は国王になれないのであれば王室の生活は制約の方が多いと判断した」との見方を示す。

 日本でも19年に高齢の上皇さまが「一代限り」の退位をした。「日本ではまだ本格的な議論は出ていないが今後どうなるか。男女平等が世界標準になった今、男系天皇を守ることは世界的に日本のイメージを悪くする。もし男系天皇を守るとしたら、国際社会にどう説明するか。一つの課題となるだろう」と指摘した。

本紙のインタビューで「沖縄と天皇」について語った米ポートランド州立大のケネス・ルオフ教授

 (梅田正覚)

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 KENNETH・RUOFF 1966年米国生まれ。ハーバード大卒。コロンビア大で博士号取得。専門は日本近現代史。北海道大で助手・講師。現在は米オレゴン州のポートランド州立大学教授、同日本研究センター所長。著書に「国民の天皇」(大佛次郎論壇賞)、「紀元二千六百年」「天皇と日本人」。